指定席








 早朝。まだ人気の無い街の中に、カランと小さな音が響く。
 バーの扉が静かに開いて、一人の男が姿を現した。
「あら、船長さん。今日は早いんですね」
 少し冷たい空気に乗せて、店の中からマキノの声が聞こえてくる。
「またしばらく船を出そうと思ってな。ルフィに見つかるとうるさいから、さっさと行こうかと・・・」
 そう言って、船長と呼ばれた男・・・シャンクスは、カウンター席に腰掛けた。
「・・・それよりなんだ?この匂い。店の外まで香って来たが・・・」
 瞳を閉じて鼻をぴくりと動かすと、シャンクスは首を傾げる。それを見て、マキノはくすっと笑って言った。
「相変わらずルフィは航海に行きたがってるんですね。・・・ほら、これです」
 マキノがカウンターの向こうから取り出したのは、大きなケーキだった。
「今日、ルフィの誕生日なんですよ」
 それを聞いて、ケーキに手を伸ばそうとしていたシャンクスが慌てて手を引っ込める。
「そうなのか?知ってりゃプレゼントの一つや二つ用意しといたのに・・・」
 そのままシャンクスは、行き場をなくした手で頬杖を突く。
「ルフィか・・・。あいつは何やりゃあ喜ぶんだ?」
 もう片方の手でマキノの差し出したコップを取り水を飲み干すと、シャンクスはポツリと呟いた。
「そうですねー・・・」
 ケーキに飾りを施しながら、マキノも首を傾げる。
 しばらくの沈黙の後、マキノがふっと呟いた。
「・・・冒険・・・」
 シャンクスは、顔を上げると、少し苦笑いした。
「ははは・・・悪いがそりゃ、やれねぇな。あいつを航海に連れて行く訳にはいかねぇし」
「・・・そうですね」
 マキノは少し微笑み返す。
 空のコップを弄びながらシャンクスはしばらく考え込んでいたが、やがて被っていた麦わら帽子を取ると言った。
「そろそろ行かねぇと。マキノさん、ちょっとお願いがあるんだが・・・」

「シャンクスの奴、また俺に内緒で行ったのかよー・・・」
 カウンター席でコップをガチガチと齧りながら、ルフィは面白くなさそうに呟いた。
「船長さんはルフィを危険な目に遭わせたくないだけよ。それよりこれ。お誕生日おめでとう」
 マキノの差し出したケーキに、ルフィが目を丸くする。
「おぉ!すっげー。ありがとうマキノ!いただきまーすっ!」
 握り締めたフォークをケーキの真ん中に突き刺すと、ルフィはあんぐりと口を開ける。その様子を、マキノが少し苦笑いしながら見守っている。
「ほれへ?はほ・・・」
 ケーキを頬張りながら言いかけて、ルフィは慌てて口の中のケーキをごくりと飲みこむ。
「うめぇ・・・」
 その様子に、マキノも自然と笑みがこぼれる。
「そう、よかった」
「それで?あの麦わら帽子は何なんだ?」
 ルフィが指差した先は、店の隅にある小さなテーブル。その上に、麦わら帽子がちょこんと載せてある。
「船長さんがね、帰ってくるまで、あの席を予約しておいてくれですって」
 それを聞いて、ルフィが首を傾げる。
「なんでだ?訳わかんねぇな」
「そうね。でも、私は船長さんらしくていいと思うわ」
「?」
 ますます首を傾げているルフィに、マキノは楽しそうに笑いかけた。
「・・・ま、いいか」
 そう言ってルフィは、残りのケーキをぱくりと口に入れた。
 店の隅では、麦わら帽子が、主の帰りを待つように佇んでいる。

 そのテーブルは、シャンクスが航海から帰ってくると、毎回ルフィに冒険の話を聞かせている、2人の指定席・・・。





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