First Christmas
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夕暮れ時。波は穏やかで、船は赤く染まった海の上を漂う。 記録指針を(いちばんまともそうな)ビビに任せて、ナミはキッチンでなにやら本を広げている。キッチンからはよい香りが漂ってきて、甲板の船員達にもうすぐ夕食が出来上がることを知らせていた。 「ねぇ、サンジ君」 フライパンを振っているサンジに向かって、ナミが声をかける。 「は〜いっ、なんでしょうナミさんっ!」 フライパンを振りながら鼻を膨らませて満面の笑みで振り返るサンジに、ナミは少しだけ溜め息をつく。 「クリスマス、って知ってる?」 肩を落としながらも、ナミは読んでいた本の1ページを指さして訊ねた。 「クリスマス・・・?ああ、北の海の最北端にあるとかいう、どこかの村の祭りだかなんだかって・・・。話は聞いたことありますけど」 「まぁそんなとこね。その村の宗教に関係する祭典みたい」 ナミはページをパラパラめくりながら答える。 「で、クリスマスが何か?」 「これ見て」 ナミは、傍らに置いてあったもう1冊の本を広げてみせる。サンジは、今度は何かをかき混ぜながら、そちらを見た。 「・・・『クリスマスには、サンタクロースがよい子にプレゼントを届けにやってきます』。あぁ、大丈夫ですよナミさん!よい子にしてなくてもナミさんには俺がプレゼントを・・・」 「違うっ!!」 サンジの頭に、ハート型のこぶができる。 「これはその村に伝わる伝説・・・みたいなもの。夜眠ってる間に、このサンタクロース氏がこっそりプレゼントを置いていくって」 「じゃあナミさんが眠ってる間に俺がこっそり忍び込んで・・・」 「しつこいっ!!」 ハート型のこぶ、2つめ。 「明日はチョッパーの誕生日でしょ。それが、クリスマス前日にあたるクリスマス・イヴとちょうど同じ日なの。だからね・・・」 ナミは、本をぱんっと閉じると言った。 「このイベントを、チョッパーのためにやるってのはどう?」 「つまり、チョッパーが眠ってる間に、俺達がサンタクロースに代わって誕生日プレゼントを置いておくと・・・」 「そういうこと。みんなにはそれとなく伝えておいて、チョッパーにはこのクリスマスのイベントのことだけは話しておくの」 「さーっすがナミさんっ!名案です!!」 サンジがハート型の煙をふかしているのを尻目に、ナミは本を抱えてすたすたとキッチンを後にした。 「クリスマス?」 夕食をほおばりながら、チョッパーはナミの言葉に首を傾げた。 「そう、正確に言えば、明日はクリスマス・イヴね。クリスマスにはね、眠ってる間に、サンタクロースって人がプレゼントを置いていってくれるの。明日の朝起きたらきっと、サンタクロース氏からプレゼントが届いてるわ」 「本当かっ!?」 「本当よ」 ナミが笑顔で答える。 「でもねトニー君」 横からビビが口をはさんだ。 「プレゼントをもらうには、準備が必要なの」 「準備?」 「そう、だから、夕食が済んだらみんなで作りましょ」 真っ暗になった海の真ん中に浮かぶ小さな船は、辺りの静けさに似合わず大変賑やかだった。女部屋では、ただ今特大の“くつした作り”が行われていた。 「これで出来上がり!」 ナミが大きなくつしたを掲げる。編み物では間に合わないということで、要らなくなった布を接ぎ合わせて作ったそれは、チョッパー1匹くらい優に入ってしまうほどの大きさである。 「おおっ!この中にプレゼントが入るのか?」 チョッパーは瞳を輝かせてそれを見つめている。 「すっげー!おいナミ!俺にも作ってくれ!」 ルフィ、本来の目的を忘れてはしゃいでいる。 「でもなんでくつしたなんだ・・・?」 首を傾げるのはウソップ。 「いいじゃねぇかそんなことどうでも。なぁナミ!俺の分!」 そう言ったルフィの前に、布がどさりと置かれる。 「自分でどうぞっ」 「なんでだよー、ケチっ」 「楽しそうだな・・・」 下から聞こえてくる声に、夕食の片付けを終えてキッチンから出てきたサンジが呟く。そのまま自分も下へ降りようとして、サンジはふと、見張り台にいるゾロに声をかけた。 「おい。お前はやらねぇのか?」 上から、姿は見せずに声だけが返ってくる。 「俺は見張りだ。それに・・・」 ゾロは面倒くさそうに体を起こしてサンジを見下ろした。 「チョッパーには悪りぃが、宗教とか神とかいうのはどうもな」 神に祈ったことがないという彼は、どうやらそういうものに関わるのもあまり好きではないらしい。 「協調性のないヤツ・・・」 サンジは呟きながら、その場を後にする。ちょうどそのとき、上がってきたチョッパーとすれ違った。 「どこ行くんだ?」 「ゾロのとこだ」 そう言ってチョッパーがサンジに見せたのは、チョッパーに作ったものとは明らかに大きさの違う、小さなくつした。 「これゾロの分。ビビが持ってけって」 「何っ!?これ、ビビちゃんが作ったのか?ということは、俺の分も・・・」 「うんっ。ウソップが作ってる」 チョッパーが大きく頷く。 「ちょっと待て!なんで俺のはウソップが作ってんだ!クソ剣士にやるくらいならそれ俺に・・・」 サンジが言い終わらないうちに、チョッパーはさっさと駆けていってしまった。 「おーいっ、ゾロー!!」 声がした方をゾロが振り返ると、チョッパーが見張り台に上ってくるところだった。 「何やってんだお前」 そう言いながら、ゾロは手を貸してチョッパーを上らせる。こういうとき、どうして人型にならずに小さいまま上ってくるんだろうということは、あえて突っ込まない(だって可愛いから)。 「ほら、これ」 見張り台に着くと、チョッパーはゾロに小さなくつしたを差し出した。ちょうどゾロの足の大きさくらいのくつしたである。 「なんだ?片方しかないし・・・」 するとチョッパーが、得意げに答える。 「このくつしたを寝るときハンモックに提げておけば、サンタクロースがこの中にプレゼントを入れていってくれるんだ」 そう言って、そのくつしたをゾロに差し出す。 「これ、ゾロの分」 「ん?・・・ああ」 サンジに『参加しない』と言った後なだけに少々ばつが悪い気もするが、くつした受け取るくらいならいいだろう、とゾロはそれを受け取った。 「サンタクロースはよい子のところにしか来ないんだ。だから俺、ビビに頼んでゾロの分も作ってもらった」 「・・・そりゃご苦労様」 少し苦笑いしてそう言ってから、ゾロは何気なくチョッパーに訊いてみた。 「けど、俺達海賊だろ?海賊やってる時点で、よい子じゃないんじゃねぇか?」 「えっ・・・」 チョッパーは思わず、考え込む。 「・・・そうか」 「だろ?」 「うーん・・・」 チョッパーはもう一度考え込んだ。 「ちょっとぉ!あんたチョッパーに何言ったのよ!」 呼ばれて見張り台から降りてみると、ゾロは開口一番ナミに怒鳴られた。 「何って、俺は素朴な疑問を投げかけてみただけだ」 「だからその素朴な疑問ってのが何か訊いてんのよっ!」 隣にいたウソップが、慌ててフォローを入れる。 「チョッパーのヤツ、さっきお前のとこから戻ってきたと思ったら突然『俺、プレゼントもらえなくてもいいから』って」 「で、笑顔で出てったはいいがそのまま自分の部屋で不貞寝」 「あー。なるほど」 ゾロは思わず相槌を打つ。 「なるほどじゃないわよ!やっぱり心当たりあるんじゃない!」 ナミはひとりで気が立っている。 「とにかく、何言ったか知らないけど、あんたちゃんと謝ってきなさいよ」 「・・・そのトニー君、部屋でぐっすり眠ってるんだけど」 ナミの後ろから言いにくそうに呟いたビビに、思わずそこにいた誰もが「おいっ」とツッコミを入れた。 そろそろ丑三つ時。男部屋のハンモックにも、女部屋のベッドにも、(なぜか)全員分のくつしたが提げてある。が、部屋にはチョッパーが眠っている以外、誰もいなかった。 「準備はOK?」 男部屋の入り口に集結したルフィ、サンジ、ビビ、カルーに、ナミが声をかける。 「おうっ、いつでもいいぞ!」 「OKですナミさ〜んっ!」 「クエッ!」 「うるさいっ!!」 大声で返事する男2人と1羽に、ナミが誰よりも大きな声でツッコミを入れる。 「ナミさん、トニー君起きるから・・・」 ビビが苦笑いしながらナミを宥める。 「それにしてもウソップ遅いわねぇ」 「やあ諸君、おまたせ」 その時、後ろから声がして、4人と1羽は振り返る。 「何?その格好・・・。そういう決まりなの?」 真っ赤なコートに身を包み、白い髭を携えてやってきたウソップに、ナミは力なくツッコむのだった。 みんな揃ったところで、懐中電灯を持ったウソップを先頭に、5人と1羽は男部屋へと入っていく。 「おい、チョッパーのヤツ、なんだかんだ言ってハンモックにくつしたぶら提げてるぞ」 ウソップが小声で言う。 「チョッパーらしくていいぞ、うん」 ルフィがひとり納得したように頷く。 「ルフィさん声が大き・・・いたっ」 「いてっ」 「どうした?ビビ」 ウソップがビビの方を懐中電灯で照らす。と、 「Mr.ブシドー!?」 おでこを押さえているビビの前に、同じくおでこを押さえたゾロが立っていた。 「なんだかんだ言ってお前も来たんじゃねぇか。しかしビビちゃんに怪我を負わせるとは許せんっ!」 「頭ぶつけただけじゃねぇか。・・・一応、チョッパーの不貞寝は俺の責任でもあるからな」 ゾロは「仕方ない」とでもいうように頭を掻く。 「さ、ともかく、早くチョッパーのくつしたにプレゼント入れようぜ。お前らうるさくてチョッパー起きちまうよ」 みんな、それぞれに自分の持って来た誕生日プレゼントをチョッパーの大きなくつしたに入れる。 「ちょっとぉ、これ誰のよ。大きすぎて入んないわよ」 「それはこのウソップ様特製自動・・・」 「おいこらルフィ!お前俺の作ったクッキー食ってんじゃねぇよ」 「だってうめぇぞこれ!」 こんなにうるさくしていてもなんとかチョッパーは起きないまま、この夜は幕を降ろした。 「うおーっ!すげーぞこれ!!」 チョッパーの叫び声に、男部屋で眠っていたルフィ、ゾロ、サンジ、ウソップ、カルーは一斉に眼を覚ました。ウソップが女部屋の2人を呼んで、ナミとビビも男部屋へやってくる。 チョッパーは、たくさん入っている、プレゼントのひとつを手にとる。よく見ると、プレゼントにはメッセージカードが添えられていた。 「・・・『お誕生日おめでとう』・・・?」 「ハッピーバースデー!チョッパー!!」 その途端、周りから一斉に声があがって、チョッパーは思わずハンモックから落ちそうになった。やっとのことでハンモックにしがみつくと、チョッパーは周りを見渡す。気づかないうちに、みんながチョッパーの元に集まっている。 「・・・俺、誕生日・・・?」 「そうよチョッパー。忘れてたの?」 「ウソップサンタクロース様とその部下達からの誕生日プレゼントだ」 「誰が部下達だ・・・」 チョッパーは次々に、くつしたからプレゼントを取り出す。それぞれが綺麗にラッピングしてあって、メッセージカードが添えてある。 「これはルフィからでしょ、それからこれはサンジ君・・・」 ナミがひとつずつ、プレゼントの説明をしていく。 「で、これはゾロから」 「昨日は余計なこと言って悪かった」 そして、最後に、無理矢理入れたウソップの大きなプレゼントを取り出してから、チョッパーは思わず叫んだ。 「みんなーっ、嬉しいぞー!!ありがとー!!!」 そんなチョッパーを、みんなが笑顔で見守る。ふと、チョッパーの大きなくつしたを見たサンジが言う。 「おい、これ、まだ何か入ってんじゃねぇのか?」 「え?」 よく見ると、ハンモックの上に置かれたくつしたが、まだぼこっと盛り上がっている。 「ほんとだ。まだ入ってる」 チョッパーはくつしたの中を覗き込むと、いちばん奥から何かを取り出した。綺麗にラッピングされている点は同じだが、メッセージカードの添えてないプレゼント。 「誰からだ?これ」 「何?誰かこっそりもうひとつ入れたの?」 「いや、俺は入れてねぇ」 「俺もだ」 誰もが首を横に振る。結局、誰のものかわからず、みんな首を傾げた。 「おい!見ろ。俺のくつしたにも入ってる!」 突然ウソップの声がして、みんな後ろを振り返る。 「おおっ!よく見りゃ俺のにも!」 ルフィも自分の作ったくつしたの中を覗き込んで言った。 「もしかして私達のにも入ってるんじゃない?」 ナミとビビが女部屋へ戻っていく。 「・・・俺のにも入ってやがる・・・」 ゾロが眉をひそめて呟く。 結局、全員のくつしたの中に、プレゼントが入っていた。 「これってもしかして・・・」 ナミがぽつりと呟く。 「本物のサンタクロースか!!」 ルフィが大声で叫ぶ。 「ほんとか!?」 チョッパーも瞳を見開いている。そして嬉しそうに言う。 「やっぱり俺、いい子にしてたからな」 「海賊なのになんでだろうなぁ。にししし」 「そりゃあルフィ、俺達が清く正しい海賊だからよ」 ウソップが得意げに言う。 ゾロはしばらく怪訝そうにプレゼントを見つめていたが、 「誰かがくつしたの中にプレゼント入れて、俺はそれを受け取った。それだけのことだ・・・」 と誰に言うでもなく呟いて、勝手に納得したようだった。宗教とか神とかに関連付けるのだけは、どうしても嫌らしい。 「ねえ、トニー君。私達のプレゼント、開けてみて」 「うん」 ビビの一言で、チョッパーはプレゼントの包みをひとつずつ開け始めた。 「・・・で」 サンジの不機嫌な声と共に、男部屋に不穏な空気が漂う。 「俺がチョッパーに作ったクッキー、全部食っちまいやがったのお前かルフィ!!」 サンジの前には、中身が空の箱が置かれている。 「お、俺じゃねぇぞ!俺は昨日夜中に1個食っただけで」 「寝ぼけて全部食べちゃったんじゃないのー?」 「ありうるな」 「ちょっと待てサンジ。ルフィが食べたとしたら、こんなに綺麗にラッピングし直すはずがねぇ」 確かに、中身だけが抜かれたとは思えないほど、それは綺麗にラッピングし直されていた。 「そりゃそうだ。・・・てことはお前かウソップ!」 「なんでそうなるんだよ!!」 また、賑やかな朝が始まった。クリスマスだろうが誕生日だろうが、いつもと変わらぬ船員達の叫び声が、今日も明るい海に響き渡る。 「だってあんまり美味そうな匂いがするから、つい、な」 そんなことを呟きながらゴーイングメリー号を見下ろす、赤いコートに白い髭のおじいさんがいたとかいないとかは、船員達にはどうでもいいこと・・・なのである。 よろしければ感想をひとこと残していってくださいね。 古い作品でも大歓迎です。 |
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