約束
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![]() 「おい。クソ剣士はどこ行った?」 両手に抱えた料理をテーブルにどっかりと下ろすと、サンジは不機嫌な声で言った。 ここは、ゴーイング・メリー号キッチン。言うまでもなく、テーブルに料理を置くより先に皿に伸びてきたゴムの手を見事な足技で蹴り落とした後の発言である。 構わず料理を食べ始めたルフィたちに代わって、ナミが答える。 「あら。ゾロなら、ご飯はいらないって、甲板の方に行ったわよ」 「いらねぇだと?俺の自信作を・・・。ありがとうナミさん!」 言うが早いが、サンジはキッチンの扉を勢いよく開けて、外に飛び出していった。 甲板ではゾロが、酒を呷りながら刀を翳して空を仰いでいた。持っているのは、和道一文字。今日は満月。月の光に、刀がよく映える。彼の周囲だけが、一種異様な静寂を保っていた。 「おい、クソ野郎」 その静寂を破ったのは、言うまでもなくサンジだった。 「・・・なんだ?」 ゾロがゆっくりと振り返る。そのただならぬ空気に、サンジは一瞬、動けなくなった。不機嫌なようでもなく、闘志を剥き出しにしている訳でもなく、むしろ穏やかにさえ感じられる空気・・・。 だがサンジは、すぐにいつもの調子に戻ると、言った。 「てめぇ俺の料理をいらねぇとはどういうことだ」 すると、ゾロは少し考えて、それから呟いた。 「・・・ああ・・・」 “ああ、そんなことか”・・・サンジには、そう言っているように聞こえた。ゾロはそれだけ言って、また、刀を天に翳す。 ・・・ちっ、調子狂うぜ・・・。 サンジは、いつもと違うゾロの様子に、少しだけ戸惑いを覚えた。いつもならすぐに言い返してきて、そして喧嘩になる。そうすることで、どういう訳かうまくやってきた。 だから余計に、サンジは何も言い返せなかった。何も言い返すことが出来ずに、押し黙ってしまった。 そんなサンジの気持ちを察したのか、ゾロはサンジをちらっと横目で見ると、また一言だけ呟いた。 「・・・命日、なんでな」 それは、何の答えにもなっていなかった。そして、全てにおいて、それが答えになっていた。 そう言えばゾロは、時々口走ることがある。“親友”だとか、“約束”だとか・・・。しかし彼は、それについて何も明らかにしない。何も言わないし、誰も何も訊かなかった。 サンジはそれ以上訊くのをやめると、甲板の手すりに凭れかかった。煙草に火をつけると、静かに白い煙を吐き出す。ゾロは、サンジを追い返すようでもなかった。相変わらず刀を翳して・・・空気は穏やかだった。 また、静寂が訪れた。白い煙が、天に昇る。その先には、満月。 「約束・・・、だからな」 ふいに、ゾロが言った。サンジが振り返る。 「・・・野望は捨てねぇ」 それは、サンジに言っているようでもあったし、刀に・・・きっと親友に・・・語りかけているようでもあった。鷹の目との戦いの中で、唯一、折れることのなかった刀。 サンジは、いつか自分が言った言葉を思い出していた。 “簡単だろ!!!野望捨てるくらい!!!” ・・・簡単、か・・・。 サンジはもう一度白い煙を吐き出すと、知らず知らずのうちに呟いていた。 「・・・俺だって捨てねぇよ・・・」 波に漂う、一隻の船。そこに並ぶ、二つの影。 今日は満月。月の光に、刀がよく映える。 イラスト きのとさん
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