みかん畑の唄
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「お帰り。遅かったね」 窓からふと視界に入ったみかん畑にナミの姿を見つけて、ノジコは外へ出た。みかん畑の一角で、ナミは今回の戦利品を地中に隠しているところだった。 「大きな船だったからちょっと手間取っちゃってね。でも見て。こんなにたくさん」 ナミは傍らの宝箱をひとつ、開けてみせる。そこには札束や宝石が溢れるほど入っていた。 「あと残り五千万ベリー。どう?希望が見えてきた?」 ノジコは言葉を返さずに、少しだけ笑ってみせた。 「ねぇ、それより、なんだかいい匂いがする。なんだか懐かしいような・・・。何か作ってるの?」 ナミは瞳を閉じて、家の方からの甘い香りに身を預けると、ノジコに訊ねてみる。 「今できたとこ。おいで」 ノジコはナミを家の中に招くと、ナミを椅子に座らせて、自分はキッチンの方へ入っていった。 「ナミ、誕生日おめでとう」 ふいに、ノジコの影が懐かしい人と重なる。ノジコが持ってきたのは、みかんケーキ・・・。 「はいできた!ベルメール特製みかんケーキ!!」 夏色のエプロンを翻し、ベルメールができたてのケーキを持ってキッチンから出てくる。 「やったぁ!ベルメールさん、はやくはやく!」 テーブルの上に身を乗りだしてはしゃぐナミ。 一年に一度、ベルメールがナミのために作るみかんケーキは、ナミがまたひとつ、大人になったことへの証。 みかんの甘い味と香りが、口いっぱいにほどけるように広がっていく。 「ナミ、誕生日おめでとう」 切り分けたケーキを夢中で食べているナミに、ベルメールが微笑む。 「ねぇベルメールさん、私のときは上にもみかん載っけてよ」 ナミの横からそう言うのはノジコ。 そこには確かに、穏やかな時間が流れていた。 ![]() 「これ・・・」 驚くナミに、ノジコが笑いかける。 「ベルメールさんみたいにうまくは作れなかったけどね。でもこれでもいちばんの自信作。食べてみて」 ノジコはケーキを切り分けると、ひとつを小さな皿に載せてナミに渡す。ナミはゆっくりと、それをひとくち、口に運ぶ。懐かしい味と香りが、口いっぱいに広がっていく。 「おいしい・・・」 「ほんと?よかった」 ナミは、まぶたの裏が熱くなっていくのを感じていた。涙が零れ落ちないように必死で堪えながら、ナミは、ケーキをひとくちずつゆっくりと口に運んでいく。 そんなナミの様子を見て、ノジコが言った。 「この村に平和が戻ったらさ、私だけじゃなく、村中のみんなであんたの誕生日祝ってあげるからね」 そう言って笑うノジコに、ナミも精一杯の笑顔で頷いた。 「ゲンさんどう?」 「うん。美味い」 ノジコの作ったみかんケーキを食べながら、ゲンゾウは呟いた。 「・・・そうか、今日はあの娘の誕生日か・・・」 「約束してたの。この村に平和が戻ったら、村中でお祝いしてやるって」 みかん畑からの爽やかな風が、窓から入ってくる。 「今ごろ、どこで何をしているんだか・・・」 そう言うゲンゾウに、ノジコが笑って言う。 「あの娘のことだから、うまくやってるよ。この世界のどこかで、あの娘はいつだって笑ってられる。もう、独りじゃないからね・・・」 ノジコはふと、窓の外を見る。風に揺れるみかんの樹の向こうで、懐かしい人が微笑んだような気がした。 ───ナミ、誕生日おめでとう─── 風に乗って声が聞こえる。きっと、この世界のどこかにいるナミにも届いているはずの、優しい、あの人の声が・・・。 イラスト マリさん
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