HAPPY BIRTHDAY








 暖房の効いた居間で、お茶を淹れている和葉の手を見つめる。
 長年幼馴染をやっていると、ごくあたりまえの光景だ。
 ごくあたりまえの光景の中で、少しだけあたりまえでないことを、あたかもあたりまえであるかのように、平次は呟いてみる。
「そういえば・・・・・・。今日ってお前の誕生日やっけ・・・」
 それを受けて、和葉もお茶を淹れながら答える。
「うん、そうやね」
 そう言ってから、和葉はふと、お茶を淹れていたその手を止める。
「・・・って」
 一呼吸入れると、平次の方を見つめて、和葉は言う。
「珍しいなぁ。平次がアタシの誕生日覚えてるなんて」
「ん・・・まぁな」
 いつも覚えてるけど、気恥ずかしいから言わないだけだ、と、平次は思う。和葉に催促されるまでちっとも覚えていなかった振りをして、和葉の「誕生日なんやから」というワガママに付き合ってやるのは、悪くない。
 それでも今年はちょっとだけ、それもごくさりげなく(本人談)、自分からアピールしてみたつもりだったが、やっぱり気恥ずかしい。
 その気恥ずかしさを隠すように、横目でじろっと和葉を見ながら、
「・・・んで、何が欲しいねん」
 と、平次はまた、ごくさりげなく(あくまで本人談)訊ねる。
 突然訊ねられ、和葉は言葉に詰まる。
「ん・・・とぉ・・・」
 急須を持ったまま、天井を見上げて考える。
 いつもは、ふと二人で通りかかった店の前で、「平次、今日何の日か知ってる?」などと切り出して、お目当てのものを買ってもらうのだが、平次の方から訊かれると、逆に困ってしまう。
 と、いうか、平次が自分の誕生日を覚えてくれていたというだけで、もう充分に満足なのだ。なんでもない振りをして(こちらも本人談)お茶なんか淹れているが、内心飛びあがりそうなくらい喜んでいることを、きっとこの目の前のジト目男は気づいていないんだろうなぁ・・・。
 たっぷり30秒間考えてから、和葉は天井を見上げたまま、ぽつりと呟いた。
「・・・工藤くん・・・」
「・・・は?」
 頭にぽっかりと大きなはてなマークを浮かべてから、平次は慌てて答える。
「あ、アカンで工藤はっ!姉ちゃんのもんやねんからっ」
 慌てている平次に、こちらは頭に大きなびっくりマークを浮かべて、和葉も慌てて返す。
「ちゃ、ちゃうって。そうやなくてっ」
 それから、和葉は、満面の笑みを浮かべて言う。こういうとき、大抵和葉がいいことを思いついたのではないということを直感的に知っている平次は、少し身構える。
「工藤くんみたいに、平次に気障なセリフ言うて欲しいっ」
「・・・・・・はい?」
 平次は顔をしかめる。何か聞き返そうとする前に、
「なんてな」
 と呟いて立ちあがると、和葉は台所の方へ行ってしまった。
 一人残った居間で、平次は考える。
 工藤新一・・・確かに彼は気障なセリフをよく吐いているけれど。・・・で、それを自分にも言えと?
 平次の頭に、「無理」という大きな二文字が浮かぶ。
 無理だろ。無理だ。うん、無理。
 頭の中で一人納得して、和葉の淹れたお茶を飲もうと湯飲みに手を伸ばしかけ、それからふと、その手を止める。
 ・・・せっかく、自分から誕生日のことを切り出して、和葉に欲しいものを訊いたのに、それを自分から却下するのか、服部平次っ。
 平次は湯飲みに伸ばしかけていた手を引っ込める。
 ・・・気障なセリフ・・・気障なセリフ・・・。
 ・・・・・・気障なセリフって、なんだ?
 確かに、新一の気障なセリフは何度となく聞いているが、それは推理をする前とかであって、女の人に言うような気の利いたセリフなど聞いた事がない。
 きっと、毎日、蘭にヤラシイ言葉を囁いてるんだろうなぁ・・・などと、平次は勝手に考える。
 腕組みをして、目を閉じると、平次はう~ん・・・とうなり始める。
 そこへ、台所からお茶請けの饅頭を持って、和葉が帰ってきた。腕組みをしている平次をぽかんと見つめ、「どうしたん?」
 と訊ねてみるが、返事はない。
 饅頭を持ったまま、平次の顔を覗きこみ、「お~い、平次く~ん?」などと呼びかけていると、平次ははっと目を開けた。
「和葉、ちょっと・・・」
 平次は、和葉の左肩に手を乗せると、耳を貸すように右手で手招きする。
 首を傾げながら耳を傾けた和葉に、平次は近づくと、耳元で囁いた。

「・・・HAPPY BIRTHDAY・・・」

 耳に息がかかったぞわ~っとした感じと、一気に頭まで上昇した体温に、和葉は思わず、持っていた饅頭を落とす。
 平次も、慌てて和葉から離れると、真っ赤な顔を隠すように、机に突っ伏す。
「・・・うわぁ、めっちゃ恥っ。これ、俺の気障の精一杯・・・」
 机にうつぶせのまま、平次は呟く。
 しばらくぼーっと突っ立ってから、和葉は思い出したように、「あれ、本気にしたんか・・・」と呟いて、落とした饅頭を拾うと、平次の横に座る。
「饅頭とお茶に気障なセリフって、全然似合わへんなぁ・・・」
 と、ごく平静に(しつこいが本人談)お茶をすすり始めた和葉に、
「うるさいわ・・・」
と一瞥した平次には、もちろん、和葉が今どれだけどきどきしているかなんて、知る由もない。





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