Special Holynight








『ちょっと待った!!』
 いつもなら、用件を早口で捲し上げて相手に有無を言わせず電話を切る平次が、思わず受話器を持ち直したのは、電話の向こうから新一の叫び声が聞こえてきたからだった。
「・・・なんやねん」
『その誘い、パス』
 受話器の向こうから、新一の無機質な言葉が返ってくる。いつもならなんだかんだ言いながら(平次によって強制的に)誘いに乗ってくれる新一だっただけに、平次は受話器を持ったまま唖然としてしまった。クリスマスにトロピカルランドへ行こう(もちろん蘭と和葉を交えて四人で)という誘いだったのだが・・・。
「ええやんかぁ、せっかくのクリスマスやで?皆でぱーっと騒ごうや」
『・・・せっかくのクリスマスだから断ってんだよ』
 新一は、既に半分呆れたような口調で言った。
『平次くーん、忘れてませんかー?蘭が“新一”にクリスマスプレゼント選んでるの見て“早く元に戻りてぇ”とか言ってた去年とは違うの』
 新一は、一気に捲し立てる。
『今年は二人きりでクリスマスパーティーすることにしたんだ。だから悪いけど(本当は悪いとか少しも思ってないけど)、パス』
 そう、新一は、長かった黒の組織との戦いを終え、長かった小学生生活にも終わりを告げた上に、長かった片思い生活にも(見事)終わりを告げてしまったのだった。
『お前も早く和葉ちゃんに告白すればいいのに。“愛してる”って』
「そんなこと言えるかー!!」
 いつの間にか新一に言い包められて立場が逆転した平次は、思わずそのまま電話を切った。

 まったく工藤の奴・・・。お前と一緒にするなっちゅうねん。そんな似合わん事俺に言えるか。
 クリスマス・イヴ。高校では、今年最後のHRが行われていた。クリスマスが近づくにつれ、あのとき新一に言われた言葉を思い出してなんだか腹が立つ。
 ・・・ちょっと待て、その前に、なんで俺が和葉に告白せなあかんねん。
 恋愛に関しては人一倍鈍い平次の思考は、未だこの域から脱していないようである・・・。
「こらっ」
 後ろから担任の怒鳴り声が聞こえて、上の空だった平次は思わず顔を上げた。恐る恐る後ろを覗き見る・・・と、怒られているのは自分ではなく、斜め後ろの和葉であることがわかった。
「クリスマスで浮かれるんはわかるけど、先生の話終わるまでもうちょっと待っとってや」
 教室から笑いが漏れる。
 ・・・なんや?和葉の奴・・・。
 話を聞いていなかった平次は、訳がわからずそのまま前に向き直ろうとした。と、
「これはHR終わるまで先生が預かっとくから」
 そう言って、担任は和葉の手から何かを取り上げた。
 ・・・なんやあれ、編み物か?
 ちらりと見えたそれを、平次は肩越しに不思議そうに眺めていた。

「誰にプレゼントするんか知らんけど、早よ編まんとクリスマス終わってまうで」
「わかってますって。せやからHRの時間を使ってこうやって・・・いたっ」
 担任が和葉の頭をこつんと叩く。和葉は照れ笑いしながら、担任から編み物を受け取った。
 職員室から出ると、数人のクラスメイトが和葉に駆け寄った。
「もう、アホやなぁ。HRなんかに編んだりして。今日午後から空いてんのやから家で編んだらええのに」
「そやかて、編み物なんて初めてやから、てこずってしもて。昨日間違えてたとこがどうしても気になってな」
「だからって本人のおるとこで編まんでも・・・。服部くん見てたで」
「嘘っ。バレたかなぁ・・・」
「さあねぇ。そやけど、せっかく決心したんやから、頑張りや」
「もちろんっ。今年こそはこれ渡して平次に告白するって、決めてんからっ」
 そう、くすぶっている平次をよそに、和葉は平次に想いを伝えるべく、平次へのプレゼントを編んでいた。このことは、クラスの女子生徒には周知の事実で(HRの一件で大半の男子生徒も気づいたであろう)、“平次と和葉”という組み合わせはクラス公認であったことから(鈍いのは本人たちのみ)、味方は非常に多かった。
 手芸品店を幾つも回って何度も吟味した後、やっとのことで“平次に似合いそう”と買ったコバルトグリーンの毛糸で、和葉はマフラーを編んでいた。編み物に関してはまったくの初心者で、多少歪んだ編み目はご愛嬌・・・。なんとかクリスマスに間に合うかというところまで作り終え、“イニシャルでも入れてみようかな”なんて考えていた矢先、担任に没収されてしまったというわけである。
「はぁ・・・。せやけど、人生の大きな分かれ道や。フラれたらもう平次とは上手く喋られへんかも知れんし・・・。平次、他に好きな子おったりしたら・・・」
 それは絶対にないっ!と心の中で大きく首を振りながらも、クラスメイト達はかわるがわる和葉に声をかける。
「ま、当たって砕けろって言うし。なぁ」
「砕けたら嫌やぁ・・・」
「完全に恋する乙女やね。可愛いわー。アタシ和葉に告白しちゃおうかなー」
「もぉっ!からかわんといて・・・わっ」
 真っ赤になりながら教室に入ろうとしたとき、和葉はちょうどドアのあたりで誰かにぶつかった。
「ごっめーん!」
 そう言って顔を上げた和葉の前にはよく知った顔が・・・。
「へ、平次っ」
 和葉は慌てて編み物の袋を後ろに隠したが、時既に遅し。平次は和葉が隠した袋をちらっと見ると、不機嫌そうに言った。
「別に隠さんかてええやんか。編み物なんか始めて。好きな奴にでもあげるんかいな」
 いきなり平次に核心を衝かれ、和葉は言葉を濁らせる。
「あ、えーと・・・、これは・・・」
 と、和葉が何か言う前に、平次が和葉に言った。
「誰にやるんか知らへんけど、似合わんモン作りよって。もらった奴が気の毒やわ」
「・・・え?」
 今、なんて・・・?
 和葉は思わず、平次を凝視する。
「せやからぁ、そんなん誰もいらへんて言うてんのや!」
 平次は思わず、大声で怒鳴りつけた。その途端、(言うまでもなく)平次の左頬が赤く染まる。
「ったー・・・」
「平次の・・・、アホーーーーーーっ!!」
 ヒリヒリする右手を握りしめ、和葉は廊下を駆けていった。
 平次がこの場にいた女子生徒全員の顰蹙を買ったことは、言うまでもない・・・。

「・・・和葉の奴・・・」
 自分の部屋のベッドに寝転がると、平次は天井に向かって呟いた。
 自分が悪いのはわかっている。わかっているのだけれど、なぜだか謝りたくない。和葉が、HRの時間に担任の目を盗んでまで誰かに渡すプレゼントを編んでいたかと思うと、なんだか腹が立つのだ(もちろん彼はこれが嫉妬であるなどと思っているはずがなく、ましてや和葉が編んでいたのが自分へのプレゼントだなどと思うはずもない・・・)。
「・・・和葉の奴・・・」
 何十回目かに同じセリフを呟いたときには、既に夜になっていた。
 ふいにあたりが静かになったような気がして、平次は窓の外を見た。開けたままのカーテンの向こうで、ちらりちらりと舞っているものが見える。
 ・・・ホワイトクリスマスっちゅうやつか・・・。
 平次はしばらく窓の外を見つめていたが、やがて勢いよくベッドから体を起こすと、「さてと・・・」と誰に言うでもなく呟いて、家を飛び出した。

「雪、降ってたんかぁ・・・。道理で寒いと思った・・・」
 窓の外を見つめながら、和葉は呟いた。
 ・・・マフラー、こんな日に巻いて欲しかったんになぁ・・・。
 昼間の出来事を思い出して、和葉は俯いた。
 ・・・告白する前に、フラれてしもた・・・。
 こちらも平次に負けず劣らずの鈍感である。
 と、二階から見下ろした路地から、こちらへ歩いてくる平次と目が合った。
 へ、平次・・・!
「和葉っ」
 和葉に気づいた平次が慌てて駆けてくる。和葉は思わず、カーテンを閉めて陰に隠れた。
「おい和葉!」
 外から平次の叫び声が聞こえる。
 ・・・なんやの・・・、一体・・・。
「昼間のこと謝りに来たんや。俺が悪かった!」
 顔を合わせれば喧嘩(もとい漫才)ばかりの二人なので、突然素直に謝ったりされるとなんだか気恥ずかしくなってしまう。あたりが静かなせいか、普段でも大きな平次の声は余計に大きく響く。和葉は思わず、カーテンの中に包まってしまった。
「和葉!」
 そんな和葉の様子を見て、平次がもう一度声をかける。
「もぉ!恥ずかしいからそない叫ばんといて!」
 カーテンを勢いよく押しのけて窓を開けると、和葉が平次に向かって叫んだ。
「自分かて叫んでるやん・・・」
 平次、こういうときでもツッコミは忘れない。
「うるさい!!用が済んだんならさっさと帰って!」
 そう言ってまた窓を閉めようとした和葉に、平次は慌てて声をかける。
「ちょっと待て!まだ終わってへんわ。人の話は最後まで聞けや!」
「なんやの!言いたいことあるなら早く言うて!」
 こうなるともはや近所迷惑である(但しいつものことなので周辺住民はさほど驚かない)。
「昼間言うたこと、本心やないからな!」
「へ?」
 予想外の言葉に、和葉は返す言葉に詰まる。平次はそのまま言葉を続けた。
「なんや知らんけど、お前が俺以外の男にプレゼント編んどると思うと腹立つんや。せやからそんなことやめてしまえばええ思て、あんなこと言うたんや」
 ・・・は?
 和葉は、文字通り目が点になっている。
 それって・・・。
「・・・嫉妬?」
 ・・・おまけに自己中心的。
「アホかっ!」
 平次、ツッコむべきところを間違っている上に、自分の感情がなんなのか未だわかっておらず。
「せやからこうやって謝りに来たんや。俺の言うたことなんか気にせんでええから、お前はプレゼント渡して来ぃ!和葉の作ったモンなら喜んでくれるで」
 ・・・そんなこと言われてもなぁ・・・。
 和葉は雪の中こちらを見つめて立っている、本来プレゼントを受け取るべき男をじっと見つめ返す。
 ・・・アホはどっちや・・・。
「平次ぃ」
 和葉は平次に声をかけると、二階から平次に向かって何かを投げつけた。ふいのことで、顔面直撃して地面に落ちたそれを、平次が雪の中から拾い上げる。
「これは・・・?」
 平次が拾ったのは、ぐちゃぐちゃになった毛糸の玉だった。
「平次のアホぉのせいで純粋な乙女心を傷つけられた和葉さんは、今まで編んだ毛糸を全部ほどいてしまいましたとさ」
「なっ・・・」
 それを聞いて大慌てする平次。
「なんやてっ!お前、そんなボケかましとる場合とちゃうやんっ。ホンマ、ごめんっ、和葉!俺が悪かった!間に合うかわからへんけど、もう一回編んだってや!・・・お、俺も手伝うか・・・?」
 外でおろおろしている平次に、和葉は思わず吹き出した。
「アホ平次。冗談や冗談」
「じょ、冗談・・・?」
 頭の上に今度はふわりと降ってきた物体を、平次は地面に落ちる前にキャッチする。不器用に編まれた、コバルトグリーンのマフラー・・・。
「さっきのはいちばん最初に編んで失敗した毛糸。ホンマはちゃんと最後まで編んでん」
 それを聞いて、平次がほっと溜め息をつく。
「脅かすなや・・・。ほんならこれ、渡しにいかんと・・・」
 言いかけた平次の目に、あるものが映った。マフラーの端の方に、ブルーの毛糸でイニシャルが編まれている。
「“H.H”って、これ・・・」
 平次は思わず、大きく目を見開いて和葉を見つめる。
「そんなスケベなイニシャル、アタシの周りに他におると思う?」
 和葉は頬を赤らめながらも、意地悪そうに笑う。
「アホ、スケベは余計や・・・」
 ツッコミを返す平次の声も、最後の方は途切れ途切れで、じっとマフラーを見つめている。
「せやけど・・・」
「けど・・・?」
 次の瞬間、平次は満面の笑みで和葉に答えた。
「めっちゃ嬉しいわ」
 せやからそんな突然素直に言われると恥ずかしなるやんか・・・。
 和葉は思わず、またカーテンで顔を隠した。
 平次はマフラーを首に巻くと、満足したように一人頷く。
「うん。めっちゃあったかい。これでもうちょっと上手く編めてたら最高やねんけどなぁ」
 その言葉に、和葉が反応しないはずもなく。
「そりゃ悪かったなぁ。外は寒いやろうから家に入れたろか思たけど、やーめた」
「嘘です和葉お嬢様ぁ!どうかこの愚か者を家に入れて暖かいミルクを一杯!」
 和葉は少し考えて、
「せやなぁ・・・、お願い聞いてくれたら入れてあげてもええけど、平次には絶対無理やからやっぱりあかんわ」
「そんなこと言わんと。なんや、お願いって」
「せやから、絶対無理やから言わへんて」
 そんなことを言っている間にも雪はどんどん降り積もり、和葉は「しゃあないなぁ」と笑いながら階下へ降りる。どうやらこの二人も、“二人きりのクリスマス”、くらいは過ごせそうである。が・・・。
「で、お願いってなんやねん」
「さあな。もう忘れてしもたわ」
 アタシの気持ちどころか、自分の気持ちさえもわからへんような鈍感男やから、もしかしたら一生無理かも知れへんけど・・・。
 和葉は思う。いつか、平次が自分だけを想ってくれる日が来たら・・・と。我侭なお願いだけれど・・・。
 そして、いつか聞いてみたい。似合わない顔して、彼の口から告げられる・・・、

 最高の、“愛してる”。


何だってこんな不器用で 遠回りしてしまうんだろう
いつだってこんな自分を 責めてばかりいたんだ

あの手この手考えてみたけど
チープなやり方じゃ 物足りない感じ

心が伝えたがる Special Holynight
誰よりも近くに感じて欲しいよ
少し無理めなお願いをきいて
浮かれた気分に乗っちゃって 愛を語ろう

寒空にキラキラ 街の灯が二人をつつむ
空いた心は素直
単純に温もり求めて君に手を伸ばす
数え切れない程の未来描いて
少しずつ少しずつ形にしてゆくんだ


上原あずみ「Special Holynight」(上原あずみ「無色」GIZA,INC.)






よろしければ感想をひとこと残していってくださいね。
古い作品でも大歓迎です。


はじめまして(2010.11.05)
名前:さくら(URL)

こんにちは。平次と和葉が大好きで、いつも小説読ませていただいています。このお話は、何度読んでもキュンとします。やきもち妬く平次くん、大好きです。
また遊びに来させてください。

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(2010.11.05)
名前:cherry(URL)

こんにちは。読んでくださってありがとうございます☆
わぁ、キュンとするなんて言っていただけると、舞い上がっちゃいます。
私もやきもちやく平次くん気に入ってます^^。

編集












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