果てしなき逃亡生活
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「和葉!?」 外は雨。どんよりとした、ぱっとしない一日。 突然の玄関のベルに新一が扉を開けると、そこにいたのはびしょ濡れになった和葉だった。 「あー、よかった。工藤くんおって。ちょっとあがらして」 いつもの笑顔で和葉が言う。そのまま家に入ろうとする和葉を、新一が慌てて制した。 「ちょっと待て。今タオル持ってくるから」 「あ、そりゃそうやな」 和葉が自分の格好を見て頷く。そのまま、タオルを取りに行った新一の背中に向かって言う。 「蘭ちゃんのとこ行ったんやけど、誰もおらへんくって。ほんで工藤くんとこ向かってたら急に雨降り出すから」 「あぁ、蘭なら、今日は家族で出かけるって。夕方にはここに寄るから待ってろって言われたけど」 そう言いながら、新一が戻ってくる。 「あそこの家族、結構うまくいってるんやん。でもあれやな。こんな雨になってしもて、残念やんな」 「いいんじゃねぇの?蘭にとってみれば、雨か晴れかなんてどうでもいいんだよ。家族一緒にいられればね。はい、タオル」 「ありがとぉ。やっぱ工藤くんは、蘭ちゃんのこといちばんに考えるんやな」 和葉はそう言って、新一の顔を覗き込むとにやっと笑った。 「バーロー。からかうんなら家に入れねぇぞ」 「はいはい、もう言わへんて。ほんなら、おじゃましまーす」 「・・・ったく」 和葉が笑いながら玄関にあがる。新一はひとつ大きな溜め息をついた。 「風呂場にTシャツとジーパンが置いてあるから、着替えてこいよ。オレはコーヒー入れるから」 新一は不機嫌そうな顔で(実際不機嫌だったのかもしれないが)言ったが、和葉はいっこうに気にする様子もなく、 「ありがとぉ」 そう言ってさっさと風呂場に行ってしまった。 コーヒーを入れながら、新一は風呂場にいる和葉に聞こえるようにわざと大きな声で言ってみる。 「ったく、服部といいおまえといい、なんで連絡もなしに突然現れるんだよ」 「ええやん。どうせ暇やったんやろ?それにほら、平次みたいに男臭いのが来るより、アタシみたいに女が来た方が工藤くんも嬉しいやん?」 和葉のノーテンキな声が返ってくる。あれはつっこみなのだろうか。それとも天然ボケなのだろうか・・・。 「どっちが来たって同じようなもんじゃねぇか・・・」 「何か言うたぁ?」 「何でもねぇよ!」 和葉は、鼻歌を歌いながらジーパンを履くと、裾を折り曲げる。 ひと巻き・・・ふた巻き・・・。 「なぁ、工藤くん?」 着替え終わった和葉が、扉の向こうからそっとキッチンを覗く。 「何?」 「工藤くんって、平次より足短いんやな」 そう言いながら、和葉は右足を伸ばしてみせる。 「おまえそれ墓穴掘ってる。つまり服部のジーパンも履いたことあるんだ」 「あ、なんやの今日は。痛いつっこみするやん」 「いつも言われてばっかで終わると思うなよ」 そう言って新一はにやっと笑う・・・が、 「結局負けず嫌いなんや・・・」 「・・・」 和葉の一言には敵わないのだった。 和葉はリビングのソファに座ると、新一の入れたコーヒーを飲んだ。 「おいしー。生き返ったわぁ」 そんな和葉の隣りに座ると、新一は和葉を横目で睨む。 「んで?何しに来たんだよ」 「なんよ、つれないなぁ。アタシはただ、蘭ちゃんや工藤くんに会いとぉて来たんや」 そう言って和葉はにこっと笑う。新一はがっくりと肩を落とした。 「和葉・・・おまえ、言い訳の仕方が服部とまったく同じ・・・」 「あ、ホンマ?それって喜んでえぇんかようわからんわ」 和葉はコーヒーをもう一口飲んだ。 「で?何で来たんだよ。服部と一緒ならともかく、おまえが一人で来るなんて、絶対何かあるんだろ?」 「工藤くんって変なとこで鋭いんやな」 大きなお世話だ・・・。 新一は突っ込みを入れようか迷ったが、あえて何も言わずに続けた。 「服部と喧嘩でもしたのか?」 「ううん。してへんよ」 「じゃあ、何で?」 「そうやなぁ。工藤くんも身に覚えあるんとちゃう?」 「は?」 思わぬところで自分に矛先を向けられて、新一は身じろぎした。 「な、何が?」 新一は恐る恐る訊ねる。 「例えばな、どっか出かける約束するやろ?ところがそこに事件やっちゅう連絡が入ったら、アタシのことなんかほっといて事件現場に直行や」 ちくっ。 「ほんでこっちはお守り握りしめて待っとんのに、向こうは帰ってきたと思ったら『おまえ何やっとるん?』って」 ぐさっ! 「あ、そやけど、そっちとこっちやったら状況違うか。そっちは恋人同士、こっちはただの幼馴染やしな。工藤くんは、蘭ちゃんにそんなことせぇへんか」 ざくっ!! 「ま、まあな・・・」 新一は、そう言いながら、胸を押さえて蹲る。 「どうしたん?」 「いや、別に・・・」 つっこみか・・・天然ボケか・・・。 「ほんで、いっつもこっちが心配するばっかりってなんか癪やんか。そやから今度はアタシが平次を心配させたる!!!って思って。今日遊びに行く約束しててんけど、すっぽかしてきたんよ」 和葉の背後で、何かが燃えていた。 「だからって東京来るなよ・・・」 「そやかて、友達ん家とかおってすぐ見つかってしもてもおもしろないし。ここやったらそう簡単には見つからへんやろと思ってな」 そこまで言ってから和葉はふっと溜め息をついた。 「そやけど、今ごろになってなんやアホらしなってきたわ。大体平次がアタシのこと心配してくれるわけないもんな」 和葉はソファに体を投げ出した。新一が和葉を横目で見る。 「・・・どうでもいいけどおまえすっげー無防備。ここ一応男の家・・・」 「大丈夫やて!工藤くんが蘭ちゃんしか見てへんことはわかってるから」 そう言って和葉は、笑いながら新一の肩をぽんと叩く。 服部・・・、はやくこの女どうにかしてくれ・・・。 と、そのとき、玄関のベルが鳴った。新一が面倒くさそうに玄関の扉を開ける。そして・・・。 「和葉・・・」 新一がリビングを覗き込む。 「ん?何?」 「服部・・・来てる」 「嘘!もう来たん??」 和葉はリビングから玄関を覗く。そこには、息を切らした平次が立っていた。 「ホンマに来てる・・・」 「ほら、はやく行ってやれよ」 新一が、和葉の肩を押す。 「・・・今の、『おまえはやく帰れ』ってのも入ってるやろ・・・」 「は・・・入ってないって」 新一、苦笑い。 和葉は玄関に出ると、嬉しさを隠して言ってみる。 「平次やん。どうしたん?」 「どうもこうも、おまえが約束の時間になっても来ぇへんからやなぁ!」 「約束?あぁ・・・」 あくまで白を切る和葉に、平次がぽつりと言う。 「・・・帰るぞ・・・」 「平次・・・」 そんなふうに、顔を少し赤らめながら照れくさそうに言われると、これ以上何も言えなくなってしまう。 アタシがどうしてここに来たのか、このアホにはわかってるのかどうか・・・。でも、ま、ええか。 和葉は黙って頷いた。 「そやけど、ようわかったな。アタシがここにおるって」 「・・・そんなもん・・・勘や勘!」 アホ。おまえの事くらい、すぐわかるわ・・・。 「それよりおまえ、はよこれに着替えぃ」 そう言って平次は、和葉に紙袋を差し出した。 「・・・?」 「東京は雨や言うてたから、おばちゃんから預かってきたんや。・・・人のもん着てんなや・・・」 「あ、それってもしかしてやきもち?」 「アホ。そんなんちゃうわ・・・」 にやっと笑う和葉と、顔を赤らめる平次。それを羨ましそうに(!?)見つめながら、新一は思うのだった。 蘭はやく帰ってこねぇかなぁ・・・。 「ありがと。ほんなら着替えてくるわ。工藤くん、お風呂場借りるで」 「あぁ・・・」 スキップをしながら風呂場へ向かう和葉。ふと振り返る。 「あ、そうや平次。安心しぃや」 「・・・?」 「平次の足は工藤くんより長いでぇ!」 「は・・・?」 「おまえ、それ言うなって・・・」 平次が、ふうんとにやけながら新一を見る。 「な、なんだよ・・・」 「別にぃ」 そう言いながらなおも新一を見ている平次に、新一は思わず叫ぶのだった。 「おまえら、さっさと帰れー!!!」 と、そこで、新一の携帯電話が鳴る。 「はい、工藤です。・・・目暮警部、どうしました?・・・」 「工藤、事件か?」 「あぁ、米花博物館で殺人事件だ」 「おっしゃ、オレも行くで!!」 颯爽と駆け出す二人。 「・・・へ?」 和葉が風呂場から出てきた頃にはもぬけの殻で・・・。 「ちょっとあんたら、全然わかってへんやん!!!」 和葉の叫びは、工藤家に虚しくこだまするのだった。 数日後・・・。 「ほんなら北海道あたりええんちゃう?」 「うん。いいかも。思い切って海外なんてどう?」 「そうやな。今度こそ、あの二人をぎゃふんと言わせたるで!!!」 海外逃亡を企む二人がここにいようとは、新一と平次は微塵も気づいていないのだった。このときは・・・。 よろしければ感想をひとこと残していってくださいね。 古い作品でも大歓迎です。 |
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