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 目が覚めた。まだ、辺りは真っ暗で、月明かりがレースのカーテンの隙間から差し込んでいた。しかしそこは、見慣れた場所ではなかった。
「どこ?ここ・・・」
 哀は呟いた。辺りを見回して、それからベッドから降りると、窓際へゆっくりと歩いていく。窓の外もやはり、見慣れた景色ではなかった。
 いつも通り、眠りについたはずだった。阿笠博士の家、少し大きめの、しかしふんわりと柔らかいベッドで。
 哀は、部屋の真ん中に立ち、もう一度辺りを見回した。先程よりも、視界が開けて、いろいろなものが見える。子供用の小さなベッド(そこは先程まで哀が眠っていた場所だった)、フランス人形が飾られたサイドボード、リボンやブローチの置かれた鏡台、そして、小さな木馬・・・。
 そのとき、木馬が静かに動き始めた。と同時に、背後からふわりと風が吹き抜けて、哀は思わず窓の方へ振り返る。閉まっていたはずの窓が開いて、カーテンが大きく舞い上がった。
「・・・何!?」
「驚いた?」
 背後から聞きなれた声がする。哀の視線は、先程の木馬に胡座をかいて座っている少年に注がれた。
「・・・工藤くん?」
 細身の体に整った顔立ち、そして鋭く光る瞳。哀のよく知り得ている人物に、少年はとてもよく似ていた。しかし、彼は木馬を揺らしながら答える。
「何を訳のわかんねぇこと言ってんだよ。・・・なぁ、それよりおまえ、俺の影知らねぇ?」
 哀は冷静に頭を働かせる。茶色の服に、茶色の帽子(小さな赤い羽根が刺してある)を纏った少年。すぐに、結論に達した。
 ・・・夢だわ。しかも、とても馬鹿げた・・・。
 哀は、ひとつ小さな溜め息をつく。
 そして、多分・・・。
「あるとすれば、その鏡台の引出しの中ね」
 少年は、引出しのひとつを開ける。中から、黒く透き通った布のようなものが出てきた。
「おぉ、これこれ!」
 彼はそれを広げると、自分の足にくっつけようとした。しかし、それは一向にくっつく気配がない。
 こんな馬鹿げた夢に、付き合えっていうの?
 哀はそう思いながら、ベッドに座ってしばらく少年の様子を見ていたが、やがて、諦めたように立ち上がった。
「待ってて。今、針と糸を探すから」
 そうして、引出しのひとつから裁縫道具を見つけると、少年の靴に影を縫いつけてやる。やがて、影は、少年に合わせて動き出した。
「すげぇなおまえ。ありがとな」
 そう言いながら部屋中を飛び回る彼の瞳は、事件を追っている時の“あの人物”の、好奇心に溢れた瞳そのものだった。しかし、ここにいるのは彼ではない。哀の夢の中で作り出された、・・・虚像。
「で?これからどうするの?ネバーランドにでも連れてってくれるつもり?」
 哀は、少年に向かって皮肉めいた口調で言った。飛び回っていた少年が、驚いた表情で哀の方を見る。
「何だおまえ?名探偵か?おまえ一体・・・」
「そうね・・・。あなたがピーターパンだっていうのなら、私はウェンディみたいよ・・・」
 そう言った自分が、なんだか惨めになってくる。
 私、一体何をしたいって言うの・・・?
 なぜ、こんな夢を見ているのだろう。諦めたはずだった。彼が元の体に戻ったそのときに。彼をずっと待ち続けていた彼女の元へいくのが、彼の幸せだとわかっていたから。好きになってはいけない・・・。わかってた。わかってたはずなのに・・・。
「じゃあ、ウェンディ。おまえの言う通り、行くぜ。夢の島に」
 少年が、哀の手を引く。しかし、哀は動かなかった。
「・・・?どうした?」
「ねぇ。どうして私はウェンディなのかしら・・・」
「・・・?」
 哀は嘲笑した。
「あなたにはあの人がいるはずなのに。こんなの、私のエゴだわ。私にはそう・・・、ティンカーベルなんかがお似合いね」
 夢の中でも、素直になれない私・・・。
「ウェンディに嫉妬して意地悪ばかりして、でも結局ウェンディになんか敵うわけないの。私にぴったりじゃない?」
 少年が、哀の顔を心配そうに覗き込む。
「ウェンディ・・・?」
「私は可愛くなんかなれない。あなたと一緒には行けない」
 どうしようもなく怒りが込み上げてくる。
 私は孤独(ひとり)。夢の中でも、私はこんな私でしかあり得ないの?
「・・・帰って。帰ってよ!」
 そのとき、哀の言うことを制するように、少年が叫んだ。
「だけど俺が迎えに来たのは他の誰かじゃない!おまえなんだよ」
 哀ははっとした。少年はそのまま、哀の肩に手を置く。
「俺はおまえと行くために来たんだ。・・・灰原・・・」
「・・・え・・・?」
 確かにそのとき、少年は、哀が待ち望んでいた“彼”だった。似ている、だけど違う、哀の本当に求めていたもの。ほんの、一瞬・・・。
「ここはおまえの夢の中。なんだって出来る。今ここにティンクがいないことも、おまえの意思だ。おまえを阻むものは何もない。いくらでも、可愛くなれる」
 少年はそう言って、哀の顔を覗き込んだ。
「馬鹿ね・・・」
 そう言って哀は、少し笑った。
 きっと、誰かに言ってほしかっただけ。“おまえのために”、“おまえだけのために”・・・。そう言ってほしかっただけ。必要とされたい。孤独(ひとり)になんかなりたくない。それは我侭・・・?
 私だって、可愛い女の子になりたい・・・。
 ここは私の夢の中。彼がああ言ったことも、私の意思に過ぎない。すべてが幻・・・、虚像。それでもいい。自分を救えるものが、結局自分でしかないとしても・・・。
「馬鹿ね・・・」
 哀の瞳から、涙が溢れた。
「さあ、ウェンディ」
 そう言って、少年はもう一度哀の手を引いた。哀は、小さく頷く。
「おまえが望むなら、空だって飛べる。妖精の粉なんかなくてもな」
 カーテンがふわりと揺れる窓から、二人は飛び出した。まだ見ぬ世界、哀の作り出す、虚像という名の夢の島へと。
 夢でもいい。だから、今は覚めないで。もう少しだけこのまま、素直でいさせて。これが、現実からの逃避行だとしても・・・それでもいいから。





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まとめ
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