二人のロケット
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『今からちょっと家来てや』 和葉から電話があったのは、夜八時を回った頃だった。 推理小説片手にベッドに寝ころんだまま、面倒くさそうに平次が答える。 「はぁ?今から?なんでやねん、今ええとこやのに」 『ええから早く。どうせ推理小説でも読んでんのやろ。そんなんいつでも読めるやんか』 「そんな急ぎならお前が来たらええやんか・・・」 平次は寝返りをうつと、大きなあくびをひとつ。 『夜遅くに女の子が一人で外うろうろしてたら危ないやん!』 「・・・お前なんか外うろついとったって誰も・・・いてっ!」 壁に掛かっていた額が落ちて平次の頭に命中・・・。 「・・・遠隔操作?」 『・・・は?』 「おーいっ!和葉ぁ?」 遠隔操作(!?)の甲斐あってか、平次は和葉の家に来ていた。玄関のベルは鳴らさず、直接和葉の部屋に向かって叫んでみるが、返事はない。・・・というか、多分近所迷惑。 「平次!こっちやこっち」 見ると、屋根の上から声がする。 「裏回って。梯子かけてあるから」 何かつっこむ前に、成り行き任せになってしまった。平次はとりあえず、梯子を登る。屋根まで登ると、和葉が待っていた。 「なんやねん。こんなとこで・・・」 「あんたかてテレビのニュースとか新聞くらい読んでるやろ。あれやあれ」 そう言って和葉が指さした先には・・・。 「・・・月?ああ、皆既月食・・・」 「そ、一緒に見ようや」 「用ってこれのことか・・・。俺、別に興味あらへんで」 和葉は無理矢理平次の腕を掴んで引っ張ると、自分の隣りに座らせる。 「あたしかて別に興味なんか無かったんやけど、ほら、二人で見たら案外ええもんかもしれへんで」 平次は仕方なく和葉の隣りに腰を下ろす。 「ほんなら別に俺やなくてもええやん」 「・・・別に平次やなくてもええねんけど、平次やないとあかんときもあんねん」 和葉は膝に顔を埋めて、少し拗ねてみせる。 「・・・変なやつ・・・」 「・・・あたしはいつも変なやつやねん・・・」 「自分で言うなや・・・。まあええわ。暇やから付き合うたるわ」 別にこうなることを計算して拗ねたわけではないのだが、平次が、こういうときいつも、結局は付き合ってくれる、というのは、やはり和葉が長年一緒に過ごしてきた“幼なじみ”だからなのか、それとも・・・? ともかく和葉としては、二人でいられればそれで幸せ、ということで・・・。 こうしている間にも、月は少しずつ、少しずつ、欠けていた。恋人同士であったら、月が欠けるにつれて自然と体が寄り添い・・・なんてこともあったのかもしれないが、何しろこの二人のことだから、それはないらしい。和葉もそこまで積極的ではないだろうし、平次も・・・。 だが、この二人にもこの二人なりの空気というものはあるようで。 「へぇ・・・、ホンマにだんだん消えていきよるわ」 「何か不思議やね。やっぱ見て正解やったやろ?」 和葉が得意げに言う。 「ん?・・・ま、まあな・・・」 いつのまにかかなり真剣に見入ってしまっていた以上、平次もこればかりは認めざるを得ない。 そして、月が全て欠けてしまったとき、和葉が言った。 「あたしな、ホンマは怖かってん。お月さまって、夜、真っ暗になったときに、自分を・・・、周りのみんなを照らしてくれる存在やんな。・・・そのお月さまが消えてってしまうってことが、なんか、大切なものをなくしてしまうような気がしてな。怖かってん・・・。小学生の時にも、月食ってあったやん?私、一人で怖くて布団にもぐってた。・・・けどな、隣りに平次がおってくれたら、怖くないような気がした。別に何も話してくれへんかったってええんや。ただ、側におってくれたら、怖くないんやないかって。・・・ホンマにそうやった。お月さまが欠けていくのが、こんなに素敵に見えるなんて、思ってへんかった」 和葉は、月の消えた夜空を見上げる。 「隣りに、平次がおったからやと思う。平次が隣りにおってくれて、うれしかった。・・・ううん、隣りにおったのが、平次やったからうれしかった。ホンマ、ありがとぉ。・・・って、あれ?」 満面の笑顔で振り返った和葉の視線の先には、暗闇でも分かるくらい顔を真っ赤にした平次。 「あ・・・の、うれしいというか恥ずかしいというか・・・、その・・・」 「へ、平次、なんで?」 「は?なんでって?」 「こういう時って、こう振り向いた途端隣では寝息かいて寝てたっていうのがお約束やんかぁ!」 「はぁ?」 平次の顔を敢えて表現するとすれば、文字通り、目が点、といったところ。 「なんで俺がそんな漫才みたいなことせなあかんねん!」 いつもやってるくせに・・・。 「だってだって、ホンマに聞いてるとは思ってへんかってん」 「お前マンガとかドラマの見すぎや」 今度は和葉の方が顔を真っ赤にしている。 「嫌やわぁ。あたしめっちゃ恥ずかしいこと言うてしもたやん!平次、さっき言うたこと全部忘れてええから」 「忘れとうても忘れられへんわ。そうか、俺がおったんがそんなにうれしかったんかぁ」 平次がにやけ顔で和葉をからかっている。こういうとき、素直にどっちからともなく好きと言えないのがこの二人の性分(!?)で・・・。 「あー、もぉ、平次のアホぉ!」 「なんや自分で言うといて。変なやつ・・・」 「せやからあたしはいつも変なやつやねん!でも平次には言われとうないわ」 「俺のどこが変なやつなんや」 「自分で変なやつやて気付いてないとこが変なやつなんや」 二人でいるとどうしても漫才コンビになってしまうのも性分で。 ![]() 「なんやそれ、訳分からんわ。よし、変なやつは変なやつ同士、花火やろ!」 「何でいきなりそうなんねん・・・。だから変やて。だいたい家に花火なんかあらへんで」 「大丈夫!俺家から持ってきたから」 そう言って平次は、持ってきたバッグの中から花火を取りだす。 「なんやあんた、来るとき気ぃなさそうやったのに、用意周到なんやん」 「いや、だからそれは・・・」 今度は平次がからかわれる番である。 「あ、分かった。そんだけあたしと花火やりたかってんな。平次と一緒に花火やるのがあたしの務めやと」 「アホ。そんなんちゃうわ・・・」 どうでもいいが、近所迷惑である。 消えていた月が、再び現れようとしている。が、二人の夜はまだまだ長い。 二人の関係を敢えて言うならば、軌道にのるか墜落するか、そんなあいまいな、飛び出したばかりのロケット。 これからどうなっていくのか、それは誰にも分からない・・・。 ほら煙りを上げて飛び出した 二人のロケット宙を舞うよ 軌道にのるまでが肝心 大気圏で揺れているよ ほんの少しの感動も 君と二人で感じたら 大切なものがほら また一つ増えてゆくみたいで すれ違うこともあるし 馴れ合う事もあるけど 君のいない日々なんてもう 想像する事も出来ない いつかはすべて忘れて 消え去る瞬間が来るのなら なおさら愛しいよ ねぇ軌道にのったその続きは 愛のバジェット増やさなくちゃ いつも墜落の危険が 隣り合わせの毎日だよ GARNET CROW「二人のロケット」(GARNET CROW「first kaleidscope〜君の家に着くまでずっと走ってゆく〜」TENT HOUSE) イラスト 神崎雨乃さん
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