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 クリスマスイブともなると、街はイルミネーションと訳のわからないクリスマスセールとですっかり賑わっている。
 クリスマスとは縁のない買い物を済ませ、行き交う人々の間をすり抜けて家に帰ると、“彼”は私を見るなり『遅いっ』と文句を言った。
「仕方ないでしょ。混んでたんだから」
 そう言って、買い物袋のひとつから“彼”のお気に入りのアーティストのCDを取り出し、“彼”の隣にあるコンポでかけてやると、“彼”は耳を傾けるように体を預ける。私は、“彼”のその赤い葉に、そっとキスをしてやった。

 私の恋人の名前は、洋一という。
 洋一は、ウィンドーショッピングが好きだ。
 洋一の好みはよくわからないのだけれど、ちょっとした小物から、名前を聞いたこともない画家の絵、家具類まで、インテリアになるようなものを、時々ひらめいたように「これだ!」と言って買ってくる。
 その中で、私のお気に入りは、ブルーの小さな本棚だ。
 私に電話がかかってきたのは、12月になったばかりの寒い日だった。
 洋一が、交通事故に遭ったという電話だった。
 そういうときって不思議なもので、私は、洋一の心配よりなにより、せっかく夕飯にハンバーグ作ったのに、とか、そんなことをまずぼんやりと考える。
 倒れた洋一と、車から降りてくる人、それに、群がってくる野次馬の中で、洋一が買ってきたらしい“彼”だけが、赤い葉を風に揺らしながら、そっと佇んでいた。

 一通り曲を聴き終えると、ブルーの本棚の上の“彼”は、『まあまあだな』と呟いた。
 本当は「すごく気に入った」と言っているのだということを、私はちゃんと知っている。
 買ってきた材料で簡単な夕飯を作って私が食べている間、“彼”はひっきりなしに、『ここの歌詞はあまりよくないよな』とか、『なんでこんなところでギターが入るかなぁ』とか、文句を言っていた。
 私は「そうだね」と軽く笑って、“彼”を見つめる。
 洋一は今、病院のベッドの上だ。
 あれから20日あまり。ずっと意識はない。
 洋一がいないこの生活の中で私がこうして笑って暮らしていられるのは、きっと“彼”のおかげなんだろう。“彼”は大切な友達だ。
 夕飯を食べ終わると、私は文句ばかり言っている“彼”の赤い葉に、またキスをしてやった。
『おとぎ話なら、魔法が解けて王子様は元の姿に戻れるんだけどな』
 “彼”はそう言って、赤い葉を揺らした。

 翌日、クリスマス。
 私は、“彼”を抱えて病院へ行った。
 鉢植えは“根付く”っていうからお見舞いには良くないと、看護婦さんが忠告してくれたけれど、“彼”は友達なのだ。洋一も、“彼”が来たらきっと喜ぶに違いない。
 病室に着くと、相変わらず洋一は、ベッドの上で眠っていた。
「今日はクリスマスですよぉ?」
 そう洋一に呼びかけて、私は“彼”を抱えたまま椅子に座ると、洋一をじっと見つめる。
 こういうときも、やっぱり不思議なもので、私は洋一の心配よりも、寝顔が可愛いなぁ、とかをぼんやりと考える。
 しばらく、そんな風に洋一をじっと見つめていたけれど、なんだか急に寂しくなって、私は思わず、洋一の寝顔にキスをした。
 洋一は、相変わらず、少しも動くことなく、眠っていた。
「やっぱり、魔法は解けないね」
 私はそう言って、“彼”に笑いかけた。自分でも、無理に笑っているのがわかった。
 そう言えば、“彼”に寂しそうな顔を見せるのは初めてだ、なんてことを、頭の隅でぼんやりと考える。
 「そろそろ帰らないと」と呟いて、立ちあがろうとしたとき、『ちょっと待って』と“彼”が突然私に声をかけた。
 私は、抱えている“彼”を見下ろす。しばらくの沈黙の後、“彼”は言った。
『俺のこと、壊してくれないかな』
 私はその言葉の意味がまったく飲み込めず、首を傾げる。
『この鉢ごと、割って欲しいんだ。そうすれば、コイツは目を覚ます』
 “彼”はゆっくりとそう言った。私は、“彼”に合わせるようにゆっくりと、「どういうこと?」と問い掛ける。
『あの日、フラワーショップに、コイツはたまたま通りかかって、俺のことを見つけた』
 思い出すように体を揺らしながら、“彼”は話し始めた。
『一目で気に入ったらしく、嬉しそうに俺のことを買うと、大事そうに俺を抱えて、コイツは急いで家に向かって走り出した。その途中で、事故に遭った』
 私は、“彼”の言葉を聞きながら、嬉しそうに走ってくる洋一を想像して、“彼”を抱える腕に力がこもる。
『そのとき、コイツが、俺の中に入ってきたんだ』
 “彼”は、ゆっくりとした口調をさらにゆっくりにしてそう言った。
『今のコイツの体は抜け殻なんだ。コイツは、俺の中から出たがってるよ。俺のこと壊せば、コイツは俺の中から抜け出して、目を覚ます。だから』
 そこまで言うと、“彼”は、
『今まで黙っててゴメン。ありがとう。楽しかった』
と、永遠のお別れのように優しく言った。
 私は、必死で首を振る。
「そんなこと、私、できないよ。だって、あなたは」
 私は、“彼”をぎゅっと抱きしめる。
「あなたは、大切な友達だから」
『フラワーショップから帰るとき、ね』
 私の言葉を遮るように、“彼”は言った。
『コイツ、ずっと、君の名前を呼んでたんだ』
 ひとつひとつ、言葉を区切りながら、“彼”は思い出すように呟く。
『俺を抱えて、嬉しそうに。そのときから、きっと、わかってたんだ。コイツには、君しかいないし、君には、コイツしかいなかったんだ』
 そう言って赤い葉を揺らす“彼”は、なんだか、優しく微笑んでいるように見えた。

 “彼”がいなくなったら、“彼”の好きなCDは、一体誰が聴くんだろう。
 そんなことをぼんやりと考えながら、私は“彼”の赤い葉に、最後のキスをしてやった。





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まとめ
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