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天使の梯子 ひびきゆうさん


 明日はハノンと初めてのデート・・・という日に、僕は『一夜漬け』をしていた。本棚や物置からありったけの本を引っ張り出すと、片っ端から読みあさる。分厚い百科事典から、旅行のパンフレットまで、ハノンに少しでも気の利いたことを言えないものかと、頭の中にいろいろな知識を叩き込んでいく。初めてのデート、気合を入れて臨まなくては。

 待ち合わせ場所に立っていたハノンは、真っ白なワンピースを着ていた。風に翻って、ふわりと揺れる。天使みたいだ・・・と僕は思った。天使なんか見たことないのに。そしてふわりと揺れるワンピースと共に、僕の『一夜漬けの知識』もふわりと飛んでいってしまったのだった。
 それからは、海に行ったり食事をしたり、楽しい時間を過ごした。・・・気の利いたことは何も言えなかったのに、なぜだかとても楽しかった。確かに、何か言わなくてはとギクシャクしていたのだけれど、何も言えないその空間も、ハノンの笑顔によって満たされていた。
 そう、ハノンの笑顔は最高だ。ただそこで笑ってくれるだけで、僕はなんだか幸せな気分になる。幸せな気分って、心がふわふわと宙に舞ってるような感じがする。そしてそれと共に、『一夜漬けの知識』はまたふわふわと飛んでいってしまうのだけれど・・・。

 僕の『一夜漬け』の努力が一応報われたのは、帰り道になってからだった。もうすぐ、ハノンの家にさしかかる・・・そのときに、僕はふと空を見上げた。雲の切れ間から光が差し込んで、シャワーみたいだ。
 多分そのときに、『一夜漬けの知識』がシャワーみたいに降りそそいできたのかも。僕は、ハノンにそっと囁いてみた。
「知ってる?あれ、『天使の梯子』って言うんだよ。あそこから、天使が昇ったり降りたりするんだって」
「な、なんで?なんで知ってるの!?」
 突然のハノンの問いかけに、僕の方が驚いてしまった。だって、『素敵ね』とか、『天使が見えてくるみたい』とか、もっと感動の声を聞けると思っていたから。
「なんでって・・・」
 まさか『一夜漬けで覚えた』なんて言えるわけない。僕は思わず口篭もってしまった。すると、ハノンはふぅっと溜め息をついて言った。
「知ってるなら仕方ないなぁ。そう、あれは『天使の梯子』なの」
 やけに断定的な言い方に、僕は首をかしげる。
「・・・知ってたの?」
「知ってたも何も、私、いつもあそこを昇り降りしてるから」
「・・・へ?」
「だって私、天使だもん」
 突然の言葉に、僕は言葉を失ってしまった。だって、ハノンが天使だなんて。そりゃ、『天使みたいだ』とは思ったけど・・・。
「ねぇ、あなたは、どんなときに幸せを感じる?」
 目を見開いて口をあんぐりと開けたまま固まってる僕の顔を覗き込んで、ハノンが訊ねる。僕ははっと気付いて慌てて口をつぐんだ。
「・・・ええと、ハノンの笑顔を見てるとき・・・かな」
 僕は、今日感じたままを素直に言ってみた。そう、ハノンの笑顔を見ると、僕はふわふわなんだ。するとハノンは、にっこりと笑って言った。そんな笑顔を見たら、僕はまたふわふわじゃないか。
「それはね、私のチカラのせいなんだ」
「チカラ・・・?」
「うん。天使にはね、人を幸せにするチカラがあるのよ。私は、あなたを幸せにする為にやってきたの」
 言われて僕は、思わずほうっと感嘆の溜め息をついた。なんとなく、やっぱりなという感じがした。僕はハノンに、素直に頷いた。
 とそのとき、ハノンが突然噴き出した。
「なんてね」
「・・・?」
 僕は、状況を全く飲み込めずにきょとんとしていた。
「冗談よ。あなたって、信じやすいのね」
 そう言ってハノンがまた笑った。僕は、つま先から頭の先まで真っ赤になってしまった・・・と思う。全身がすごく火照っていたから。
「私、天使なんかじゃないし、人を幸せにするチカラなんてないよ」
 そうかなぁ・・・と、僕はちょっと首をひねった。だって、ハノンはふわふわなんだよ?
「だけど嬉しい。あなたが、私の笑顔を見て幸せだって思ってくれること。そんなあなた、大好きよ」
 それを聞いて僕は、身体の温度がさっきの倍くらいに上がってしまったのだった。『信じやすい』僕でよかった。素直に喜べる僕で。『やっぱり君は天使だよ』なんて、気の利いたことはやっぱり言えなかったのだけど。

「それじゃあね」
 最高の笑顔を残して去っていくハノンを、僕はふわふわしたままずっと見送っていた。『一夜漬け』も、結構役に立つものなのかな、と思う。
 僕の視線の先には、『天使の梯子』。その梯子を昇っていくハノンを、僕はいつまでも見送っている・・・ふわふわなのだった。


イラスト ひびきゆうさん






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まとめ
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