金色(こんじき)の星降る夜に








 あの日、見えない何かから抜け出せずに怯えていた僕に、月色の猫が教えてくれた。

 願い事を繰り返していた。
 それは月のないぼんやりとした夜で、空はまるで僕の心を映し出しているかのように煙っていた。小さな街の一角で、僕は一人、膝を抱えて蹲っていた。
 願い事はたくさんある。過去との決別や、身近にあるものに手が届かないもどかしい思い、自分とは全く違うものに対する憧れ・・・。
───彼女のことを忘れられるように。
───試験に合格するように。
───鳥のように空を飛べるように。
 そのとき僕は、後ろから誰かに声をかけられた。
「こんなところで何してるんだ?」
 振り返ると、そこにいたのは、月のようにぼんやりと光る猫だった。
「何?」
 猫は首をかしげて、僕の顔を覗き込むようにしてもう一度訊ねた。
「流れ星を待ってるんだよ」
「流れ星?」
 猫は、首をかしげたまま僕の隣りに座った。
「こんな月も出ない夜に?」
「今日だけじゃないよ。毎日」
 僕は答えた。
「どうして?」
「流れ星に願い事をすると叶うんだよ」
 願い事はたくさんあるから。
 僕は猫に笑いかけた。
「ふうん」
 すると、猫はさほど興味がなさそうに丸くなった。
 僕はちょっとだけ腹立たしくなった。そんな迷信、信じることが馬鹿馬鹿しいというのだろうか。それとも、叶わない夢は、すぐに諦めてしまう性質(たち)なのだろうか。
「もし願い事が叶うなら、君は何をお願いする?」
 猫は僕に背を向けていたけれど、僕を意識していることは感じ取れた。
 だから僕は猫に訊いてみた。すると、猫は姿勢を正して、首をゆっくり動かしながら答えた。
「そうだなぁ。『魚を腹いっぱい食えるように』かな」
 今度は僕が首をかしげた。
「それだけでいいの?」
「いいさ。腹ごしらえさえ済んでれば、あとは自分で何とかできるだろ?」
 猫はうれしそうにそう言った。
 そのひとことに、僕ははっとした。迷信を信じないわけではないのだ。叶わない夢を、すぐに諦めてしまっているわけでもないのだ。彼は、自分に夢を叶える力があることを信じている。だから、願い事なんかしないんだ。
 僕はただの臆病者だ。自分から何かしようなんて思っていなかった。流れ星に願いを託して・・・そんなものに頼っているだけだった。
 なんだか、胸の中にあった何かがすっぽりと抜けたような気分だった。
「そうだね」
 なんだかおかしくなって、僕は思わず笑いだした。猫も一緒になって笑った。
「おまえは?一体何を願う?」
「うん・・・、僕も、とりあえずお腹いっぱい食べられればいいかな」
「それだけでいいのか?」
「あとは自分で、切り開いていけるよね」
「食べるもんがなくて必死で探してる自分も、たまにはいいけどな」
「まあね」
 僕達はまた、顔を見合わせて笑った。
「困ったことがあったら、いつでも相談にのるぜ」
「ほんとに?」
「だって俺達、もう友達だろ?」
 ふと見上げた空には、いつの間にか明るい月が浮かんでいた。ひとすじの流れ星に、僕はひとつだけ、願い事をした。
───ずっと友達でいたいな。

金色の星降る夜に にゃんにゃん


イラスト にゃんにゃん






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