かけら配達








 妃華(ひか)は、そのオルゴールを眺めていた。このオルゴールのふたを開けるべきか、このまま置いておくべきか・・・。いっそのこと、誰かにあげてしまおうか。・・・心の奥ではわくわくしていた。しかし、あのことを思い出すと、もしも何か大変なことが起こったらどうしようか、と、いまいち開ける勇気が湧いてこないのだった。

 その日、妃華は恋人の舜(しゅん)と2人で、買い物をしていた。ふと、ある店の前で立ち止まる。
『わぁ・・・。可愛いイヤリング・・・。でも高いよぉ・・・』
「・・・どうかした?」
「え?ううん。何でもない」
 2人が別れたあと、妃華はもう1度その店にやってきた。ショーウィンドーを眺める。
『う゛ーっ、やっぱり欲しいよぉ。舜にねだるのも悪いし、バイト増やすしかないかぁ・・・』
「ちょいと、お嬢ちゃん」
 妃華に声をかけたのは、妃華が眺めていたショーウィンドーのとなりの店、いかにも古そうな店の中にいた老婆だった。・・・いや、老婆というのも、さだかではない。なにしろ、全身黒いマントを羽織っていたのだから。どんな童話にも出てくるような・・・。そう、黒いマントを羽織った魔法使いのお婆さん。そんな感じの人だった。
「私の店に寄ってみないかい?いいものがあるのよ」
「あ・・・、でも」
『古くさい店ね。こういうトコの物って高そうじゃない。それに・・・、いいものなんてあるようには思えないけど・・・』
「さあさあ、お嬢ちゃん、だまされたと思って入ってみなよ」
『本当にだまされたりして。でも、なんかおもしろそう』
 妃華はその店へ入っていった。

「これなんだけどね」
 老婆は1つの箱を妃華に見せた。
「オルゴール?」
「そう、でも、ただのオルゴールじゃないんだよ。このオルゴールはね、開けた人によって様々なものが飛び出すんだ。何が飛び出すかは、開けてみるまで分からない」
『なにそれ。そんなコト言って高く買わせようとしてるんでしょ。悪徳商法じゃないの』
「これをお嬢ちゃんにあげるよ」
「え!?・・・あの、でも私、そんなものもらう理由ないし、悪いですよ」
「いいんだよ。このオルゴールがね、あんたにもらわれたいって言ってるんだよ。いらなくなったときはまた返してくれればいいからさ」
「はあ・・・」
『いったい何なのよ。この婆さん。本当にただでくれるんでしょうね。・・・って私こんなのいらないわよ。もし本当に何か出てきたら恐いじゃない!』
 妃華はそう思ったが、口には出せず、仕方なくオルゴールをもらって家に帰った。

「よし、こぉなったらもうヤケだわ。開けてやる。何が出てきたって知らないんだから」
 妃華は思い切ってオルゴールのふたを・・・開けた!!聞き覚えのあるメロディーが流れ出した。
「・・・あら、これって大貫亜美ちゃんの“Honey”じゃない。やったあ、この曲のオルゴールなんてどこにも売ってないんだよね。なんだぁ、様々なものが出て来るって、私の大好きな歌が流れてくるってコトだったの。心配して損しちゃったぁ」
 ・・・と、そのとき、オルゴールの中から白い煙が出始めた。
「な、なによこれ。魔法使いの婆さんの次は浦島太郎!?・・・いやぁん!」
 妃華は思わず目をつぶった。しばらくして、妃華が目をそっと開けたときには、白い煙はなく、代わりに青い服を着た女の子が立っていた。背中には白い羽がついている。
「だ、誰よあんた。勝手に人ん家にあがりこんで・・・」
「私?私は天使ですわ。あなたがそのオルゴールのふたを開けて私を呼びだしたんじゃないですか。さあ、あなたの欲しいものを何でも差し上げますわ。何がよろしいかしら」
『なんなのよ、いったい。本当にオルゴールから出てきたっていうの?もぉ、浦島太郎の次はアラジンと魔法のランプ・・・?』
「さあ、はやく。あなたのいちばん欲しいものは何ですの?」
『そんなこと言われてもなぁ・・・。本当に叶うのかしら。でも、どうせなら、何かもらっといた方がいいわよね』
 妃華は答えた。
「あのね、私、イヤリングが欲しいのよ」
「イヤリング?どんなのがよろしいかしら」
「あのね、このオルゴールもらった店のとなりの、ショーウィンドーに飾ってあったやつ」
「分かりましたわ。それと同じものを今・・・」
 そう言うと、天使(と名乗る少女)はフッと消えてしまった。
「なんだ。やっぱりね。そんな、欲しいものがそう簡単に手に入るわけないのよ。・・・あぁあ、こんなんなら、もっとどうでもいいもの言った方が良かったかなぁ。落ち込み度も少な・・・、えっ?」
 確かにさっきまでは無かったのだ。しかし、今、目の前にあるのは・・・、あの、イヤリングであった。
「うそぉ、本当に?」
 妃華はおそるおそるそのイヤリングに触ってみた。
『夢じゃないわよね。何か得した気分だわ』
 妃華はふと考えた。
『もしこのオルゴールがアラジンと魔法のランプみたいなのだったら・・・。もう1回開けたらまたあいつが出て来るってコトよね。・・・でも、あの婆さん、何が出るか分かんないって言ってたし、もし変なのが出てきたら・・・。でもまたあいつが・・・。でも・・・。・・・こんなコト言っててもキリがないわ。もう1回開けてみれば分かることなんだから』
 妃華はもう1度オルゴールのふたを開けた。出てきたのはあの天使だった。
「あなたの欲しいものを何でも差し上げますわ。何がよろしいかしら」
 妃華はほっとした。そしてまた、自分の欲しいものを言ってみた。

 ある日のことだった。妃華は最近、舜に会ってないことに気がついた。
「せっかくこんなに可愛いイヤリング出したんだもん。舜とデートしたいわよね」
 妃華は舜に電話をかけてみた。彼の母親の話では、バイトに行っているということだった。
『へんねぇ、また新しいバイトはじめたのかしら?』
 妃華の部屋は、天使に出してもらった物でいっぱいになっていた。

「9月18日?」
 妃華はカレンダーを見て呟いた。そこには、赤で花丸がつけてあった。
「いったい何の日だったかしら?誕生日でもないし・・・」
 そのとき、玄関のベルが鳴った。
「舜じゃない。久しぶりね。最近電話しても全然いないんだもん。何してたのよ」
 舜は小さな箱を取りだした。
「これ、プレゼント。今日は記念日だからさ」
 妃華ははっと気付いた。今日は、3年前、妃華と舜がつきあい始めた日と同じ、9月18日。毎年この日には記念日としてプレゼントを交換しあおうと約束していたのだ。その日を心待ちにして、新しいカレンダーを買うとすぐに、赤で花丸をつけたのだ。こんな大切な日を忘れていたなんて。
「開けてみてよ」
「え、うん」
 妃華はその箱を開けてみた。あのイヤリングだった。
「これ、すごく欲しそうだったからさ。気に入ってくれた?」
「うん。・・・ちょっと待ってて。私もプレゼントがあるから」
 妃華はすぐに自分の部屋へ行くと、オルゴールのふたを開けた。
「あなたの欲しいものを何でも差し上げますわ。何がよろしいかしら」
「至急、男の子へのプレゼントを用意して。はやく!」
 すぐにプレゼントが出てきた。妃華はそれを持って舜の所へ行こうとしたが、ふと立ち止まった。
「だめだよ。こんなのあげられないよ。こんな心のこもってないもの・・・」
 妃華はもう1度オルゴールのふたを開けた。
「あなたの欲しいものを何でも・・・」
「何もいらないわよ。このプレゼントもいらない。あんたが出したイヤリングもいらない。あんたが出したもの全部返すわよ!」
 その途端、何もかもが消えた。イヤリングも、舜に渡すプレゼントも・・・。そして、あの天使も。
「私、今まで何やってたんだろう・・・」
 妃華は急に力が抜けたようにしゃがみ込んだ。

 妃華は、今までのことをすべて舜に話した。
「だから、私、このイヤリングももらう資格ないの。・・・ごめんなさい」
 舜は答えた。
「俺は、こんなことで妃華のこと嫌いになったりしないよ。それに、妃華は気が付いたじゃないか。物に込められた心に。だから、このイヤリングも受け取ってくれよ」
 妃華は、イヤリングを握りしめた。天使が出したイヤリングの、何十倍も、何百倍も美しく見えた。

「あら、お嬢ちゃん、久しぶりだねぇ」
 妃華はまた、あの老婆の店にやってきた。
「これ、返しに来たの。もういらなくなったから」
「どんなものが出てきた?少しは役に立ったかい?」
「うん、すっごく役に立ったわよ。だからそれ、他の子にもあげてよ。きっとその子もすっごく喜ぶわよ。じゃあ、私もう行かなくちゃ」
「どこ行くんだい?」
「バイトよ。あっちの店にね、超かっこいいスニーカーがあるのよ。それを超かっこいい男の子にあげるんだ」
「そう、そりゃあはりきるわけだ」
「じゃあね、魔法使いのお婆さん」

「ちょいと、お嬢ちゃん」
 こうやって、あなたも誰かに声をかけられることがあるかもしれない。
「このオルゴールがね、あんたにもらわれたいって言ってるんだよ」
 オルゴールを開けてみよう。きっと、いつか失くしたかけらが見つかる。





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