俺たちに明日はある
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ある日のことでした。愛良(あいら)は、いつものように、学校から帰って、いつものように、夕食を食べて・・・。 ただちょっといつもと違ったのは、学校帰りに一人の長髪の男の人とぶつかって、荷物が飛び出したとき、その男の人のものらしき<S・K>の文字の入ったキーホルダーを、愛良の持っていた、それとまったく同じの<A・M>の文字の入ったキーホルダーと、取り違えて持ってきてしまったくらいで・・・。それなのに・・・。 夕食を終えて、愛良はそのキーホルダーを眺めていました。<S・K>っていったって、そんなイニシャルの人はいっぱいいるんです。同じクラスにだって、イニシャルが<S・K>の人は確か三人。それなのに、相手はどこの誰かも分からない、<AKANOTANIN>ってやつなんです。 愛良の<A・M>のキーホルダーの方も、親友からもらった大切なもの。絶対返してもらわないと・・・。 「おい、それ、俺のだよ。お前のはこっち。返せよな」 突然の男の子の声に、愛良はびっくり。見ると、机の上のかごの中に、ほんの十五センチくらいの、小学一年生くらいの男の子、あのぶつかった男の人を若返らせて小さくしたような、ちょうどそんな感じの男の子が、取り違えた<A・M>のキーホルダーを抱えて、立っていたんです。 「おい、ほら、これ、お前のだろ」 言われるままに、キーホルダーを取り替えて、しばらくたったとき、愛良はやっと我に返りました。 「あなた誰よ。こんなちっちゃいし、人間なの?それに、このキーホルダーは確かに私のだけど、そのキーホルダーは・・・。それに、どうしてきたの?」 「いっぺんにいろいろ訊くなよな。まず、一の回答、俺の名は黒谷智(くろたにさとる)。二の回答、俺は人間だよ。ちっちゃくたって、別に、お前には関係ねぇ。三の回答、このキーホルダーは確かに俺のです。ぶつかったのも俺。そして四の回答は・・・」 そこまで言ってやっと一息つくと、<黒谷智>は言いました。 「俺が来たのは、お前が好きだから。会いたかったからだよ」 愛良は、訳が分かりません。突然現れた、今さっき名前を知ったばかりの、しかも小学生に<好き>って言われても・・・。 それに、小さくたって関係ない、そりゃそうでしょうけど、やっぱり気になるし。 「何?俺が小学生じゃ不満なわけ?それとも、十五センチだから?」 智は言いました。愛良は何を言ったらいいのか分かりませんでしたが、とりあえず訊いてみました。 「じゃあ、私とぶつかったときのあの年齢になれるの?・・・背丈はそのままで」 「もちろん」 と言うと、愛良がまばたきをした一瞬の間に、智は、二十代前半くらいの、あの男の人になっていたのです。 思わず、愛良はその男の人を見つめてしまいました。 かっこいい。こういう人にだったら、好きって言われてもうれしいわよね。 あ、でも背丈が・・・。そう思った瞬間、愛良ははっと身震いしました。一目惚れじゃないんだから。 その日から、智は、毎日、愛良の家に来るようになりました。ある時は小学生の姿で、愛良の肩にちょこんと座って。ある時は普通の背丈に戻って公園でバスケット。またあるときは二十代前半の、あの男の人になって、二人きりでショッピング。 小学生になったり、大人になったり、小さくなったり、大きくなったり、愛良にとって、それは、とても不思議なことだったのに、いつの間にか、それが自然なことになって。 親友にも話せない、二人だけの時間。学校にいるときも、なぜだか気になって気になって・・・。 いつの間にか、このかっこよくて、やさしくて、ちょっとクールな男の人を、心の底から好きになっていました。 ある日のことでした。いつも通り学校から帰ってくると、智はいつものように待っていました。 でも・・・。智は愛良にこう言ったのです。 「俺、今日の夜、お前とお別れしなくちゃならないんだ」 愛良にはよく分かりません。智は言いました。 「俺はね、天国に住む天使なんだよ。天使はさ、一生に一度だけ、人間の姿で、地上に降りてくることが出来るんだ。このキーホルダーは、天国と地上を結ぶ鍵。・・・それで、今日が、人間でいられる最後の日なんだ」 智は続けました。 「俺は、ずっとお前のことが好きで、いつも天国からお前のこと見てた。だから、どうしても、会って話して、一緒に過ごしたかったんだ。今までありがとうな」 愛良は、智と別れるなんて、考えたこともありませんでした。ただ、ずっと一緒にいられると信じて・・・。 でも、ここで二人が終わってしまわないのが、ドラマなんです。 「天使はね、天国に帰る前に、ひとつだけ、誰かの願いを叶えてあげることが出来るんだ。お前の願いを叶えてやるよ」 愛良の顔が、ぱっと輝きました。 「本当に、なんでも?」 「ああ、一度した願い事は、たとえ神様にだって取り消せないんだ」 一年後・・・。 教会の鐘が鳴っています。ウェディングドレスを着ているのは、十八歳になった愛良。そして、隣にいるのは・・・。 そのころ、天国では、神様が溜息をついている。 「まったく、毎年毎年天使の数が減って困るよ」 そう言って、地上を見下ろし、にたっと笑う。 愛良が、ブーケを投げた。 よろしければ感想をひとこと残していってくださいね。 古い作品でも大歓迎です。 |
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