戦場のハッピーバースデー
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あれから、どれくらいの時間が経ったのだろうか。 太陽が、もう随分低いところにある。夕焼けが綺麗だ。 「サンジくん!」 俺の姿を見つけたナミさんが、俺に駆け寄ってくる。 俺が無事なのを確認すると、ナミさんは、ほっとしたような、不安なような、複雑な笑顔を見せた。 俺は甲板を見渡す。別行動を取っていたルフィやウソップは、既に戻ってきていた。 チョッパーが、皆の傷の手当てをしている。 「ごめんナミさん。ちょっと手間取っちまって。俺が最後か」 苦笑いしながら、俺はポリポリと頭を掻いた。 そんな俺に、ナミさんが小さく首を振る。 「ゾロがまだ・・・」 そう言うと、ナミさんは少し俯いた。 「チョコレートケーキもいいな・・・。いや、ここは王道のイチゴショートか・・・?」 並みいる敵に強烈な蹴りを食らわせながら、俺は考える。 「なぁ、どっちがいいと思う?」 前から来た敵の攻撃をさらりと避けてから、隣りで刀を振り回しているクソ剣士に声をかける。 「さあな・・・」 短く答えて、周りを囲っていた3人を一気に片付けてから、ゾロはふと思いついたように言った。 「・・・みかんケーキ」 俺は、ほう、と小さく頷く。 「なるほど、お前にしちゃあ・・・」 向かってきた最後の1人の顎を、俺は思いっきり蹴り上げた。 「ナイスアイディアじゃねぇか」 これまで幾度も、命がいくつあっても足りないような戦いを乗り越えてきたが、これもそんな戦いの最中だった。 俺とゾロが目指すのは、この回廊の向こう。 この奥に、目指す敵がいる。 向かってくる雑魚どもを倒しながら、俺たちは、奥へ、奥へと進んでいく。 「みかんづくしのディナーってのもいいな。みかんのフルコース。まず前菜は・・・」 「俺は酒がありゃいい」 「てめぇは料理酒でも飲んでろ」 振り返ることなく、前へ、前へ。 俺たちが急いでいるのには、訳があった。 今日は、特別な日なのだ。 心優しく美しい女神が、この世に生を受けた日。 ナミさんの誕生日。 「大体、ちまちま料理出したって、腹に入りゃ一緒だろ?どかっと大盛り出しときゃいいじゃねぇか」 「あぁ?ナミさんの誕生日だぞ?お前らの時と一緒にすんな」 まず、テーブルには白いテーブルクロス。その真ん中には、儚げに揺れるキャンドル。 俺の頭の中に、イメージが膨らんでいく。 「綺麗に磨かれたグラスに、ワインを注ぐ。テーブルごしに向かい合う2人。『ナミさん、誕生日おめでとう。今日の君は特別輝いて見えるよ』『ありがとうサンジくん、私のためにこんなに素敵なディナーを用意してくれて』そして2人は見つめ合い・・・」 「おいっ、分かれてるぞ!」 今夜起こる出来事を想像して、いつの間にか独り芝居していた俺は、遥か先から聞こえたゾロの声にはっと我に返る。 声のした方を見ると、回廊を抜けた先から、道が二手に分かれていた。 俺は慌てて、ゾロの元へと駆け寄る。 「俺はこっちへ行く。お前はそっち行け」 ゾロが、刀で道を指す。 「あ?俺に指図する気か?」 「お前が余計な妄想してるからだ」 言い合いながらも、俺たちはそれぞれの道へと向かう。 「くたばるんじゃねぇぞクソまりも」 「そりゃこっちのセリフだグルまゆ」 そして、お互い、声を張り上げるように言った。 「約束、忘れんじゃねぇぞ」 「大丈夫、アイツは殺したって死なねぇよ」 俯いたナミさんを元気づけるように、俺は努めて明るく言った。 「それに」 ナミさんが顔をあげるのを待ってから、俺は言う。 「アイツは約束は破らねぇ。だろ?」 俺の言葉に、ナミさんが頷く。再び顔をあげたナミさんは、いつもの笑顔に戻っていた。 「そうよね、私との約束破ろうなんて、10万年早いわよ」 「そういうこと。さてと、俺はナミさんのために、最高のディナーを作るとするか」 そう言って腕を上げようとして、俺は一瞬、躊躇した。 「・・・っ」 思わず顔を歪める。 「どうしたの?」 ナミさんが心配そうに覗き込んでくる。上目遣いのナミさんが、可愛すぎる。 おまけに胸の谷間が強調されて、思わず鼻の下を伸ばし・・・そうになったとき、ナミさんに思いっきり頭をグーで殴られた。 「もう。心配してるのに」 「あ、いや、ごめんごめん。ちょっと左腕をやられたみたいで。けど・・・」 俺は、左腕の袖を捲ってみせた。 「ほら、ナミさんにもらった傷薬と包帯のおかげで、大丈夫」 キッチンで夕食の準備をしていた手が、ふと止まる。 「・・・殺したって死なねぇ、か・・・」 ナミさんに言った言葉を、ひとり呟いてみる。 周りに誰もいないせいか、やけに声が部屋に響いている気がした。 左腕の傷が疼く。ナミさんにもらった傷薬と、包帯に包まれているはずなのに、なぜだか痛い。 先程作ったばかりのバースデーケーキを見つめる。みかんがたっぷり載った、大きな太陽のようなケーキ。 「クソ・・・。なんであんなヤツのこと心配してんだ俺は」 俺は大きなため息を吐いた。 ナミさんには「大丈夫」と言ってはみたものの、あれからまだ、クソ剣士は帰ってこない。 もうすっかり、日は沈んでいる。 途中までは一緒にいたんだ。こんなに帰りが遅いとなると、何かあったとしか思えない。 「ほっときゃいいだろ、別に・・・」 そう呟いて、再び夕食の準備を始める。 『約束、忘れんじゃねぇぞ』 ふと、声を合わせて言った、あの言葉が脳裏に浮かんだ。 約束・・・。 『約束よ』 ナミさんの声が、それに重なった。 それは、俺たちが戦いに出る、少し前のこと。 「はい、これ、プレゼント」 背後から声がして、俺とゾロの間から、すらっとした美しい手が伸びてきた。 目の前に手を差し出されたゾロは、しばらく怪訝そうな顔をしてから、 「・・・俺か?」 そう呟くと、その美しい手から差し出された白い包みを受け取る。 振り返ると、今日も麗しいナミさんの姿があった。 「なんだこりゃ・・・?」 ナミさんから受け取った包みを開けたゾロが、首を傾げる。 「チョッパーから預かってきたの。傷薬と包帯。ゾロはいつも怪我して戻ってくるんだからって」 ナミさんはそう言うと、からかうように笑う。 「包帯は動きにくいから好きじゃねぇんだ・・・」 そう呟いたゾロに、俺は横槍を入れる。 「てめぇナミさんからの優しい心遣いに文句言ってんじゃねぇ」 「チョッパーからだろ?」 もう少しで足蹴を食らわせてやるところだったが、その前に、ナミさんからお声がかかった。 「はいこれ、サンジくんにも」 そう言ってナミさんは、俺にも白い包みを差し出す。『ゾロだけなんて、サンジくんが可哀そうよ』と、チョッパーに頼んでもらってきてくれたに違いない、その包みを。 「っナミさん、好きだ〜!」 「はいはい・・・」 俺のラブコールを軽くかわしたナミさん(そんな照れ屋なナミさんも好きだ)は、そのあと少し寂しげな笑顔を浮かべた。 「絶対戻ってくるのよ。ひとりでも欠けたら、承知しないんだから」 ナミさんの不安を吹き飛ばすように、 「任せとけ」 俺とゾロは、思わず声を揃えて言った。 ふふっと笑って、ナミさんがいつもの笑顔に戻る。 花が咲いたように、辺りがパーっと明るくなる、あの笑顔。 「ひとり残らず、みんなにたっぷりお祝いしてもらわなくちゃ」 「当り前さ。腕によりをかけて料理を作るよ」 念を押すように、ナミさんはゾロにも声をかける。 「あんたも忘れんじゃないわよ?プレゼントは3倍返し!」 「・・・3倍って、これのか?」 ゾロが言い終わるか言い終わらないかのうちに、 「約束よ」 ナミさんはそう言うと、そっと俺たちの背中を押した。 俺はまた、何回目かの大きなため息を吐いた。 「アイツは約束は破らねぇ、自分でそう言っただろうが・・・」 俺は少し、自嘲気味に笑う。 「・・・いや、それよりも、アイツがどうなろうが俺の知ったこっちゃねぇ」 誰も聞いてないのに、俺は声に出して、ぶるぶると首を振る。 「知ったこっちゃねぇ。けど・・・」 次の言葉を、必死に考える。 誰も聞いてないのに、何か言わなきゃならない。そんな気がしてくる。 その時ふと、心配そうに俯いたナミさんの顔が浮かんだ。 「そうだ、知ったこっちゃねぇ。けど・・・」 俺は顔を上げる。 「ナミさんにあんな顔させるヤツは、俺が許さねぇ。そういうことだ」 ひとり頷くと、俺はキッチンの扉を開けた。 「サンジくん」 船から降りようとした俺の背後から、声がかかる。呼び止められて、俺は振り返る。 寂しそうな瞳でこちらを見つめていたのは、ナミさんだった。 「大丈夫、アイツは殺したって死なない」 ナミさんが、俺に向かって言う。俺がナミさんに言った言葉だ。 「それに、アイツは約束は破らない。そうよね?」 念を押すように、ナミさんがまた、俺の言葉をなぞる。 「ナミさん・・・」 呼び止められた意味に気付いて、俺は少し俯いた。 どんなクソ野郎だって、アイツは仲間だ。アイツのことを信じてないわけじゃねぇ。 だから、わかってる。わかってる、けど・・・。 「けど・・・」 このままずっと、待ってろって言うのか? そんな寂しそうな顔をしていても、君は・・・。 俺が何か言おうとする前に、ナミさんが言った。 「『迎えに』・・・行ってやって。あの馬鹿」 思いがけない言葉に、俺は顔を上げる。 こちらを見つめているナミさんを、まっすぐに見返した。 「ね?」 少し首を傾げるようにしてそう言うと、ナミさんは、俺に向かって満面の笑みを浮かべる。 ナミさん・・・。 ナミさん、ナミさん、ナミさん、っナミさん!! 俺の胸の中に、熱いものが溢れてくる。 「任せとけ」 俺は笑顔で返すと、船を飛び出した。 「くたばったんじゃなかったのか」 船からはずいぶん離れた荒廃した地に、その影を見つけたのは、それからしばらく後のこと。 息を切らして探していたのを悟られないよう、たっぷり30秒深呼吸を繰り返してから、俺はクソ剣士の元へ歩み寄った。 丸太に腰掛けていたゾロが、俺の声に気付いて顔をあげる。泥や血で汚れてはいるが、いたって元気そうだ。 少しほっとしたのを隠すように、俺はゾロをじろりと睨む。 「こんなところで何やってる?」 「別に・・・」 俺の心配をよそに、ゾロは、そっけない返事を返してきた。 思わず、軸足を踏みしめる。 俺の脳裏に、ナミさんの顔が浮かんできた。 俺たちにプレゼントをくれたナミさん、『約束よ』と俺たちの背中を押すナミさん、心配そうに俯くナミさん、俺を笑顔で送り出してくれたナミさん。 ナミさんの顔が浮かぶたび、沸々と怒りが湧いてくる。 「てめぇ、ナミさんに散々心配かけといて、なんだその態度。大体お前・・・」 俺が捲し立てるのを遮るように、クソ剣士はポツリと言った。 「忘れたわけじゃねぇんだ、約束・・・」 「あぁ?」 俺は再びゾロを睨む。 「だから、だなぁ・・・」 歯切れの悪い返事をして、ゾロはどうにもバツが悪そうに頭を掻いた。 何か言い返そうとして、俺はハタと思い当たった。 「まさかお前・・・」 俺は思わず、目を見張る。 同時に、さっきまでの怒りが、どんどん小さくなっていく。 それとは別に、なんだか、クスクスと心地良い笑いが、心の底から込み上げてきた。 クソ剣士がいっそう、バツの悪そうな顔をする。 「迷ってたのか?」 言ってしまうとどうしようもなく可笑しくなって、俺は思いっきり声をあげて笑い出した。 いつものことなのに、なんでそんなことに気付かなかったんだろう。 俺は自分の馬鹿さ加減に、首を傾げる。 心配して心配して、結果がこれか? どうしようもなく可笑しい。ゾロにだろうか、それとも、自分にだろうか。 「まったく、何やってんだホントに」 どうにも笑いの止まらない俺に、 「うるせぇ。笑いすぎだお前・・・」 ゾロは、凄みもなく、まるでいたずらが見つかった小さな子供のようにそう言った。 自分の中にあった、何か重いものが、すっと抜けていく。どういうわけか、さっきまで疼いていた左腕の痛みもなくなった。 「しょうがねぇなぁ。帰るぞ」 まだ笑い足りない気持ちを抑えながら、俺は言った。 とにかく、心配してるナミさんを、早く安心させてやらないと。 ・・・それとも? 俺は少し考える。 ナミさんにはわかっていたのだろうか?『迎えに行って』と言った、ナミさんは、もしかしたら・・・。 ゾロが、傍らに置いてあったものを持って立ち上がった。 コイツにはちっとも似合わない、大きな花を3輪。 コイツなりの優しさなのか何なのか、茎の切り口に、包帯がぐるぐると巻きつけてある。 彼はそれを、包み込むように両手で抱え込んだ。 俺の視線に気づいたのか、ゾロが呟くように言う。 「・・・ここへ来る途中で見つけた。なんて花だ?」 「ひまわりも知らねぇのか?」 ゾロが持っていたのは、ひまわりの花だった。月明かりの中でもそれとわかるような、鮮やかな黄色。 俺の問いかけに「知らねぇ・・・」と短く答えてから、ゾロはまた、呟くように言った。 「・・・なんとなく、似てるだろ?アイツの・・・」 彼の途切れた言葉の向こうに、笑顔が見えた。 無邪気に、楽しそうに笑う、彼女の笑顔。 「あぁ・・・」 短く答えたあと、俺はしばらくの間、その残像に見惚れていた。 しばしの沈黙のあと、俺は3輪のひまわりに視線を戻すと、からかうように言う。 「3倍返しには程遠いんじゃねぇか?」 「うるせぇ・・・」 ゾロはまたバツが悪そうに呟いた。 ゾロの抱えたひまわりを見つめながら、俺は考える。 すっかり遅くなってしまったが、船に戻ったらさっそく、ナミさんに最高のディナーを振舞おう。 コイツにはたっぷり反省してもらわねぇと。酒は一滴も出してやらねぇ。 みかんケーキなら一口くらいは、食わしてやってもいいか? 今夜は長い夜になりそうだ。 彼女は、一体どんな笑顔を見せてくれるだろう。 よろしければ感想をひとこと残していってくださいね。 古い作品でも大歓迎です。 (2008.07.18) 名前:Fahren(URL) One peace 好きなんだね。 最近、カウンターがチョッパーなのに気がつきましたよ。 みかんケーキって食べたこと無いけどおいしそう。 今度作って、Up希望! 編集 (2008.07.18) 名前:cherry(URL) え〜と、すみません、お名前に見覚えがないのですが、文章の感じからするとまたあの方? ワンピ好きです。カウンターは自作です^^。 みかんケーキ、そのうち作ってみます〜。またブログにアップします。 編集 (2008.07.21) 名前:かとう(URL) あの方らしいよ。 聞いた話だとブラウザが勝手に違う名前を覚えて入れちゃうので毎回修正しないといけないらしい。 大変だねー。(笑) 編集 (2008.07.21) 名前:cherry(URL) やはり^^。 ブラウザの機能ってたまに、役に立つんだか立たないんだか分かんないですよねぇ。。。 編集 |
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